なんだろう。
何かかがおかしい。
私の、何かが……。
―記憶―
「ねぇ、お父さん。新しいお家って大きい?」
「ああ、大きいとも。庭もあるから思いっきり遊べるぞ」
私は車の揺れに身を任せながら、弟と父の話を聞いていた。
今日は引越しの日。マンションから一戸建ての家に私達は引っ越す。
「早くつかないかな〜」
小学校2年の弟は、ワクワクして助手席のシートにへばりつく。
「あら、浩太は嬉しそうなのに夏海は大人しいわね。どうしたの?」
クスクス笑い、背中を向けたまま母が言った。
「別に…ちょっと車に酔っただけだよ」
私は、ゆっくり窓の外の世界に目を向けた。
幸い新しい家に引っ越しても学区は変わらなかったから、転校せずに済んで良かった。
それは良かったんだけど…なんだか落ち着かない。
窓の外を建物が流れていく。
「あら、こんな所に郵便局なんてあるのね」
母が呟いた後、私の目に郵便局が映った。
違う、あれは……。
頭の中で、赤い帽子を被った女の子が手を振る様子が映った。
懐かしい残像。あの子は…優子ちゃんだ。
私は瞬きを一つした。
…今何を言いかけたんだろう?優子…って誰だっけ?
「ほら浩太、大きな公園があるわよ」
「サッカーできる?」
「どうかしら」
ううん、緑公園ではサッカーできないよ。だって遊具が沢山あって小さい子も沢山来るから。だって、そう秀ちゃんが、ぶつくさ言ってたよ。
「あ、ダメみたいね。禁止の看板が立ってるわ」
私は「ほらね」と胸の中で答えた。
「そろそろ着くぞ」
父がハンドルを切った。大きな青い屋根の家が見えた。
「あそこー?」
「そうだよ」
車がキッ、と音を立てて庭に止まった。私は真っ先に外に出た。
庭には、沢山の大きな木が立っていた。
「木がいっぱいあるわね〜桜かしら?」
母が荷物を下ろしながら言った。
「違う。全部夏みかんの木だよ。桜の木は裏庭に一本しかないよ」
何故私は、こんな事を知っているんだろう。…分からない。
「あら、夏海詳しいのね。学校で勉強したの?」
「…うん。この前スケッチしたばかりだったから」
私は適当にそう答えた。
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