ねぇ桂木、俺とデートしようよ。
つい昨日、匪口さんから電話がかかってきて突然そう切り出された。
それが電話で良かったと正直私は思ってる。
だって直接だったら私は顔が真っ赤になってにやけるのを隠す自信がなかったから。
ドキドキしながら頑張ってオシャレして匪口さんと待ち合わせたレストランに入る。
デートという響きが何だかむず痒くって、私は料理が来るなり匪口さんの顔をわざと見ないように手を動かした。
チラ、と匪口さんの方をうかがうと、どこか不機嫌そうな表情で私を見ていた。かと思ったら突然口を開いた。
「ねぇ桂木ってさ、好きなヤツいんの?」
びくっと肩を振るわす。
浮かれていたこと、匪口さんにバレバレだったのかな。
それとも私、大きな勘違いでもしていたのかな。ぐるぐる思考は巡る。
「…いますけど」
それは目の前の貴方なんですけど…なんてところまで言い切る勇気は私にはなかった。
なのに匪口さんは鼻で笑って軽々しく言ってみせた。
「どうせ桂木のことだから、美味い料理とかケーキとかって言うんだろ?」
何かが胸に突き刺さった気がした。
そっか、私が人を好きになるなんて匪口さんには想像もつかないことだったのか。
匪口さんの反応に、ムッとする。
「まぁ、当たってなくはないかな。…匪口さんこそ、好きな人いないんですか?」
ぐっと匪口さんの顔が一瞬戸惑いの色を見せる。
「俺?俺だっているけど」
どきり、と胸が跳ね上がる。誰なんだろう。
でも匪口さんを断る人なんていないんだろうな。だって私が認めた人だもん。
私の恋心をけなす、勝ち目のない私の思い人が目の前にいるかと思うと、何だかやるせなさが募る。
「そっか、匪口さんだったら上手くいくと思うなぁ。少なくとも私だったら……匪口さんと付き合うかどうかは分からないけど」
好きになってしまうに違いない。
匪口さんは顔を引きつらせ、私をまっすぐ見た。
「何それ。どういう意味?」
気の抜けた表情を向けた匪口さんに対し、私はちょっと意地悪そうに笑って見せた。
「匪口さんには絶対教えてあげない」
だって教えたら私の負けになってしまうから。
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