浩太   ふーん。妹さんのために、誘拐?おっさん、もしかして家族のために犯罪に手を染めた優しすぎるお兄さん?
      笑わせないでくれないかなぁ。そんなドラマみたいな話、あるわけないじゃん。この資本主義社会でさ。
      何?何が原因で自棄になっちゃったの?

男    自棄にも変にもなるさ。こんな世の中、嫌になる。今は資本主義の末期ってやつだな。
      金がなくちゃ、何にも始まらない。

浩太   お金で買えないものだってあるんじゃないの?大人は良くそう言うじゃんか。

男    そういうのも、確かにあるけどよ。金がなかったら、生きていけない。そうだろ?

浩太   そう。それで、妹さんを言い訳にして悪者になりたかったわけ。もし捕まったらどうするの?
      妹さんにも、お母さんにもばれちゃうよ?どんなに妹さんが悲しむかなぁ。

男    捕まりそうになったら、俺はその前に死ぬ。そんだけだ。
      やっぱ、俺には無理だったのかってな。

浩太   ……じゃあ今捕まっても良いんだ?

男    どういう意味だよ?

浩太   オレが110番を押して(ケータイで110番をプッシュ)警察に通報すんの

男    ………このガキ(飛びつこうとするがかわされる)

浩太   おっさんののろまー。いいの?通話ボタン押しちゃうよ?おっさん、捕まったら
      取り調べでかつ丼食えるよ、おめでとう。良かったね(ケータイを耳に当てる)

男    やめろ。今すぐそのケータイをよこせ。(腰に下げていた銃を構える)

浩太   へっへーん。とれるもんなら取ってごらんよ、べろべろばー



 浩太は段ボールの陰に隠れ、顔を出す。



浩太    追いかけっこしようよ。おっさんが勝ったら、またしばらく大人しくしてあげる。捕まえてみてくれたまえ。



 男は浩太の挑発に乗る。音楽に合わせ追いかけっこかくれんぼが開始。
 最終的に男が浩太の首根っこを捕まえる。



浩太   離してよーオレ、電話なんてかけてないよ。もうちょっとおっさんと遊びたいもん。
      ね、だからもう一回かくれんぼしようよ。やっぱりおっさんの方が鬼でさー…

男    誤魔化すな!俺にはそんな暇ねぇんだよ!(手に力を込める)

浩太   痛い痛い…こんなとこでおっさんが捕まったら面白くないじゃん。本当に電話なんて掛けてないよ。安心してよ。
      っていうかそのケータイ、オレのなんだから返してよ。オレは逃げもしないし、通報もしないかさ。

男    黙れ。どこにそんな証拠があるんだよ(浩太を突き放す)

浩太   一晩大人しくしといてあげたじゃん。俺はただおっさんと暇つぶししたいだけなんだよ。
      昨日だって、おっさん、俺より先に寝ちゃうしさ。
      逃げようと思ったらいくらでも逃げられたし、通報だってできたよ。でもしなかったってことはさ。
      …信じてくんないかな。オレ、おっさんのこと信じてんだよ。俺のことを悪い扱いしないだろうなって

男     何でだよ

浩太   オレ、ほら、金持ちの跡取り息子ってことで顔が通ってるからさ。
      おっさんで、オレが誘拐されたのが128回目になったんだよね。だから、いろんな大人を見て来たよ。
      中にはヤバい人もいたしさぁ。ご飯くれない人もいたし。ずっと縛られてた時もあったし。
      でさ、子供ぶって誘拐した理由を聞くとおもしろいくらい皆すんなり教えてくれるわけ。
      大抵借金が返せなかったりさ、働く代わりに誘拐で金を作ろうとしてたりさ。いろいろだよ。
      でも皆自分のためだったな。いくら泣いて言い訳したって、
      そんなのただの都合のいいように話しただけの言い訳だよ。
      おっさんは変だけど、いいヤツだよ。こんなこと、本当はしたくないんじゃないの?

男     分かったような口きくな。俺は…本当は自分のために金が要るんだ

浩太   嘘だ。だったら本当の理由を話してよ。嘘ついたって、オレ、すぐに分かるんだぜ。
      おっさん、どう見ても悪いことできなさそうじゃん。
      っていうより、悪いことしてこなかったって感じかな。おっさん、本当は今までクソ真面目に生きてきたんじゃないの?
      それで上手くいかなくなっちゃったんでしょ?大人ってやだね。オレ、大人になんてなりたくない。
      ずっと子供のまま遊んでいたいな。ねぇおっさん、オレと、ずっと遊んでようよ。

男     好き勝手言ってんじゃねぇ

浩太   だってさ、遊んで暮らせたら幸せじゃん。毎日美味しいもん食べて遊び疲れて眠りたいよ。
      おっさんだって、そう思うでしょ?

男     思ってたさ。今でも思う

浩太    だったら…

男    でも現実はそんなに甘くねぇんだよ!お前みたいなガキを見てると腹が立って仕方がねぇ!
      あぁ、そうだよ。俺は真面目に働いた。生きてきた。でも親父も俺も、
      いくら働いたってその日暮らしの給料で、梨香を助けてやれなかった。俺は嫌になったんだ。
      世の中に、お前みたいな親の苦労も知らずに親の金でのうのうと暮らしてるガキがいるかと思うと
      腹が立ってしょうがなくなる。お前らなんて親の金で親の脛かじって、無意味に学歴だけ積んで
      親を困らせながら生きてんだろ?挙句の果てには学校をやめたいだとかぬかしながらな。
      行きたくても行けねぇやつだってそこらにいるんだよ。暗い部屋の中で最後を待つだけの奴がいるんだ。
      結局少数の人間を無視しながらこの民主主義の社会は進んでんだよ。

浩太   もしかして妹さん、病気?

男    あぁ、そうだよ。
      でもついこの前、手術すれば治るって医者が言った。でも金を用意できるのはいつになるか分からねぇ。
      その間に、梨香はもっと悪くなっていく。
      …こうでもしなきゃ、誘拐でもしなきゃ、俺に三千万なんて大金は作れねぇ。
      お前の家族には悪いが、俺らにとっての大金でも、お前みたいな金持ちにとっちゃ、たったの三千万なんだろ?
      だったらくれよ。妹の命を俺に買ってくれよ。俺の妹の命は、お前みたいな金持ちだったら買える値段なんだ。
      お前みたいな金持ちだったらな!

浩太   そんな…妹さんの命をモノみたいに…

男    だってモノだろ?値段をつけられるものだって言われてんだよこっちは。
      家族の命をそんな風に言われちゃ、自棄にでもなんなきゃやってらんねぇんだよ!
      どうせお前だって、俺の苦労なんか分かっちゃいねぇんだろ

浩太   分かってるよ。オレだって働いてる身だもん。

男    馬鹿言え。中学生が働けるわけねぇだろ。法律で決まってる。

浩太   信じてくんないんだね。どうせ、まだ俺が名嘉城浩介だと思ってるんでしょ?

男    何言ってんだよ。そうに決まってんだろ。

浩太   悪いけど、勘違いしてるよ。

男    何だと?

浩太   いつ言おうか迷ってたんだけどね。言ったら誘拐ごっこ終わっちゃうし。

男    は?…お前は、名嘉城浩平の息子の名嘉城浩介だろ?今朝だって新聞に出てたじゃねぇか。俺は見たぞ。
      だって俺はこの脅迫状を作るときに、お前の名前をお前の誘拐の記事から切り抜いたんだからよ!

浩太   あ、アレはオレ。

男    ほらみろ!やっぱりお前が名嘉城浩介なんだろ?

浩太   だから、違うって。俺は名嘉城浩介の影武者。

男    か、影武者?

浩太   そ。俺の本名は山野浩太。浩介とおなじ、十二歳。



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