男    じゃあ何でお前が名嘉城浩介としてテレビに出てんだよ?

浩太   おっさん、俺の話ちゃんと聞いてた?俺は浩介として、生活してんの。だから、影武者

男    ……何だって?

浩太   浩介は金持ちの跡取り息子ってことで、5歳になるまでに50回も誘拐されたんだよ。
      で、その中の一回がオレだったんだよね。

男    ………ちょ、ちょっと待て。頭痛くなってきやがった。

浩太   なんか、俺と浩介って似てたらしくてさ。5歳の時の話だけど。それで、名嘉城さんが目を付けたらしくて。
      オレは名嘉城さんに雇われて浩介の影武者をやることになったってわけ。ドゥーユーアンダースタン?

男    じゃ、じゃあお前は…名嘉城浩介じゃなくて…赤の他人?まったくの別人?

浩太   そう。よくできました。やっと分かったんだね。



 男は笑いだす。



浩太   ちょっと、何がおかしいんだよ?

男    俺、ついてねぇな。馬鹿にもほどがある…そうか…お前、一般庶民なのか…
     どうりで…だよなぁ

浩太   そうだよ。それが?
      …とりあえずオレの家は名嘉城さんの家の隣なんだけど。使用人の人と一緒に住んでんの。
      オレは名嘉城さんに雇われててさ。給料が良いんだ。
      まぁ、皆面白いくらい俺を名嘉城浩平だと思って誘拐するんだよね。
      これがおかしくってさ。頑張って高級料理用意する奴もいるくらいでさ。
      オレがちょっとアレがしたいこれがしたいって呟いただけで、気を利かして何でもやってくれる奴もいたりするんだよ。
      笑っちゃうよな。俺は名嘉城さんの息子でもなければ、そいつらが考えているような大金持ちでもないんだぜ?
      オレを誘拐したところで名嘉城さんは一円も払わないよ。

男    …そりゃそうだよな、どうりでおかしいわけだ。

浩太   え?

男    有名財閥の跡取り息子がこんなくそガキなわけねぇよな。
      駄菓子を好んで食べるわけがねぇよ…

浩太   騙されるのも仕方ないよ。だって俺、浩介の代わりに金持ちのパーティーに連れだされるくらいだもん。
      オレが影武者だって、浩介に影武者がいるって知ってるのは極一部。
      浩介の本当の家族だけだよ。身内以外に知らせたのは、おっさんが初めて

男    どうして俺にその話をしようと思ったんだよ?

浩太   おっさんなら黙っててくれそうだと思ったからさ。おっさん、根はいいヤツだもん。ただ、運がないだけ。

男    あぁ、確かに運はからっきしねぇ。俺の苦労はなんだったんだ…やっぱ、俺は悪役にはなれねぇのかな…

浩太   でも、おっさんはヒーローなんじゃないの?

男    は?

浩太   おっさんのは、おっさんの妹さんの命を救おうと戦うヒーローなんでしょ?

男    ……ヒーローなんて、俺の柄じゃねぇよ。結局、救えないまま負けたヒーローなんてヒーローじゃないさ。

浩太   本当は嬉しいくせに。小さいころも、本当はヒーローになりたかったんじゃないの?
      でも自分じゃなれない、無理だーって思いこんじゃったんじゃない?だからひねくれて…こんな可哀そうなことに。

男    この野郎…好き勝手なことぬかしやがって。

浩太   でもどうするの?お金…ないと困るんでしょ?

男    ……梨香には悪いけどな…

浩太   …ねぇ、おっさんはさ、約束守ってくれる?

男    何だよ、いきなり。

浩太   さっきの影武者の話。誰にも言わないよね?

男    …わかんねぇぞ。ついコロっと言っちまうかもしれねぇな

浩太   口止め料があればいい?

男    (何かを悟ったように笑う)あぁ、三千万のな

浩太   高い口止め料だね。まぁ、オレにとったら、たったの三千万だけど
      ねぇ、口止めにしては高すぎるからさ…おっさんの命を一緒に売ってよ。

男    ………いいぜ

浩太   決まり。おっさんを俺のボディーガードとして雇うよ。
      明日からよろしくね

男     ただ働きはしないぞ

浩太   やだなぁ。そんなケチなことしないよ。
      …こう見えても、オレだって小金持ちだからさ。そんなの朝飯前なんだよ(小切手を書いて渡す)

男    このくそガキ。……ありがとな

浩太   え?聞こえなかったなぁ…もっと大きい声で、ハッキリとペコペコ頭を下げながら
      浩太様ありがとうございます、一生恩に着ますって言ってくんなきゃ

男    調子に乗りやがって!(首に腕を回して締める)

浩太   痛い痛い〜。あのさ、また遊んでよ。今度は浩介と一緒に

男    …しょうがねぇな。

浩太   ありがと。じゃあ、俺そろそろ帰るよ。母さんが待ってる。昨日も今日も楽しかった。
      おっさんも、早く帰った方がいいんじゃない?妹さんもお母さんも、待ってるんでしょ?

男    そうだな。…帰るか。大きな土産もできたしな。

浩太   オレからのプレゼントだって、話してよ。

男    分かってるよ。心配すんな。

浩太   じゃあ、またね



 浩太はける。  男は周囲の段ボールを片づけ、一つに腰掛けケータイで電話をかける。



男     あ、母さん?俺、今から帰るよ。約束通り土産持ってくから。きっと母さんも梨香も驚くぜ。
      ………なぁ母さん、俺って梨香にとってのヒーローになれたのかな。…いいや、ちょっと言ってみたくなっただけだよ。
      いろいろあったけどさ。今日、俺、まだこの世界で生きていけそうだと思ったんだ。
      …面白いガキに会ったんだよ。詳しい話は、帰ってからゆっくりする。うん、飯を準備しながら待っててくれよ。
      なるべく早く帰るからさ。(電話を切る)



 男はその場を去ろうとして足を止め振り返る。



男    ありがと、な。



 男がはけ、幕。