男    おい、お前…そのティラミスを、いつ食べたって?

浩太   ついさっき。5分くらい前。そこにあった鞄の中にあってさ。消費期限も近かったから。
      …いやぁ、本当に美味かったなぁ…

男    俺のティラミスゥゥゥゥ!

浩太   え?

男    俺の愛しいティラミス!苦味を含んだ大人の味のココアパウダーが
      たっぷりかかった俺のティラミス!軽い口どけのふわふわスポンジ!とろけるような生クリーム!
      畳みかけるようなバタークリームまでも…よくも食いやがったなこの野郎!
      俺からあの愛しいティラミスを全て奪いやがって!あぁぁ、後でゆっくり愛でながら食べようと思ってたのに…
      スキップしながらコンビニでセール品の最後の一つを買ったところだったのに…スキップするほど楽しみしてたのに…
      あぁぁぁカムバーック、俺のティラミス!

浩太   そんな…落ち込まないでよ。新しく買えるようにオレが千円上げるからさ

男    お前…いいヤツだな

浩太   そうでもないよ。これくらい朝飯前

男    だって千円って…お前、千円でチロルチョコ何個買えると思ってんだよ!貴重だぞ。千円って庶民にとっちゃ貴重だぞ。

浩太   そうかなぁ…(あごに手を当てる)あ、油浮いてきたな…(千円札を手に取り鼻に当て丸めて捨てる)

男    (丸まった千円札に飛びつく)くっそぉぉ、金持ちの馬鹿やろー!

浩太   (欠伸)お腹いっぱいになったら眠くなってきちゃった。



 浩太は潰した段ボールを並べてその上に寝そべる。
 男はため息をついて、その場に座り毛布にくるまると、浩太に毛布を投げつける。
 浩太は起き上がり男に声をかける。



浩太   おっさんさぁ、何気にいい人だよね。(男の反応を待つが反応なし)
      …おやすみ



 暗転。
 暗い舞台上で浩太の周りだけが明るくなる。浩太はケータイで電話をかけている。



浩太   あ、山野さん?オレだよ、オレ。うん、そう。そのとおり。オレ今、面白いおっさんに誘拐されてる真っ最中―。
      変な薬で眠らされて変な倉庫の中で縄で縛られちゃってさぁ。え?変なことはされてないよ。大丈夫。
      え?それでここが何処かって?…何か、変な倉庫。うん、そう、典型的なコンクリのさ。帰って来い?
      やだよ。もうちょっと遊んでからにする。だっておっさん、悪いやつじゃなさそうなんだもん。
      そう、殺されはしないよ。オレだって伊達に何度も誘拐されてないもん。うん、ヤバくなったらまた連絡する。
      ……わかってるよ。だってこれが俺の仕事だもん



 暗転。のちに男の周りが明るくなる。



男    …あぁ、母さん?ごめん、今仕事の合間。そう、海老奈のサービスエリアで寝てたとこ。
      分かってるよ。今日もちょっと忙しくて帰れないけどさ。金が出来たらすぐ帰るから。
      …あぁ、心配しなくていいから。梨香は?………そうか。土産いっぱい持って帰るからさ。
      うん、じゃあ。母さんも体に気をつけて。あぁ、俺は大丈夫、うん。じゃ。



 暗転。暗転中に男はける。その後、明転。浩太、目覚める。
 男がラーメンと胡椒と七味とゴマのボトルを盆にのせて持ってくる。



男    起きろ。朝飯だ

浩太   七味にゴマに胡椒…おっさん、気が利くね。でもラーメン?朝から?

男    食いたくないなら食わなくてよろしい

浩太   そんなこと誰も言ってないじゃん。食べます食べます。オレお腹ペコペコ

男    七味いるか?

浩太   いいよ、別に

男    おこちゃまに七味唐辛子は早かったか

浩太   (ムッとする)あ、ショッカー(指さす)

男    えっ、どこだ?(指さされた方に振り返る)

浩太   (七味を男のラーメンに入れる)あれ、見間違いかなー

男    そうだよな、なわけねぇよな…

浩太   あっ、ほらあそこ!デスラー!

男    (振り向く)…どこだよ?

浩太   (中身を全部入れる)あぁ、ごめんごめん、やっぱ見間違いだったみたいだ

男    なんだよ…さっさと食べないとのびるぞ。(異変に気づく)
      おい、あれ、ユーフォーじゃねぇか?

浩太   えっ、(振り向く)どこどこ?

男    (どんぶりを入れ替える)あぁ、消えちまったなぁ…今丁度窓から見えてたんだがなぁ

浩太   なんだ…残念…あっあそこ!

男    (振り向く)…今度は何だ?

浩太   (どんぶりを入れ替える)ごめん、オレ今日目が変みたいだ。気にしないで食べようか、おっさん。

男    そうみたいだな…(食べてむせる)



 浩太、笑い転げる。



浩太   変なのはおっさん、あんたの頭だよ。俺を騙そうなんて百年早いね!
      そもそもオレを誘拐しようなんて思うとこが甘いんだよ。
      金持ちの子供を誘拐してまでお金が必要?何のために?どうせ借金とかさ、自分のせいで作った元凶があるんでしょ?
      だったら頑張って働いて返せばいいんじゃん。その分のお金を最初に手にしたのはおっさんの方なんだからさ。
      それとも、おっさんいいヤツそうだから…誰かの借金を押し付けられたってわけ?うわぁ、ついてないねぇ。

男    借金なんかねぇよ。

浩太   じゃあ三千万で何するの?家を買うの?車を買うの?それともおっさんは
      もっと大きな罪を犯して、海外へ逃げようとか思ってるの?でも結局は自分のためでしょ?

男    違う。俺がいるんじゃない。

浩太   じゃあ、どうしてこんなことしてるの?子供の頃の夢をかなえたかったの?昨日言ってたよね。
      子供の頃に、悪役になりたかったって。相当悪役が好きなんだね。そんだけのために俺を誘拐したわけ?

男    金が要るんだ。

浩太   ………

男    金がなくちゃ、アイツは…梨香は…

浩太   だれ?…恋人?…妹さん?

男    うるせぇ。それがどうした



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