浩太   違うよ、殺人犯なんかじゃなくて万引き犯。

男     どこが違ぇんだよ

浩太   全然違うよ。今のおっさんの設定は、ミュージシャンを目指して田舎を飛び出したは良いものの
      食べるものに困って近所の激安スーパーのタイムセールで万引きをやった馬鹿な浪人生

男    そんなみじめな設定いらねぇよ。殺人犯の方がまだマシだ

浩太   もう、じゃあなんだったら良いって言うんだよ。
      おっさん今すげぇ楽しそうだったくせにー。冗談を冗談と分からない大人って嫌だなぁ。
      嫌だ嫌だ、オレは絶対そんなつまんない大人にはなんないぞーっと。



 浩太、ポケットからケータイを取り出し、いじり始める。
 男は目を丸くして浩太からケータイを奪おうとする。



浩太   ちょっと、おっさん、何しようとしてんの?迷惑なんだけど

男    そ、それ…

浩太   オレのケータイだけど。何?おっさん、今時ケータイ見たことないわけ?本当に現代人?
      そんな人、日本にまだいたんだ…

男    そうじゃなくて…お前、ケータイ持ってたのかよ

浩太   今時の中学生なら当たり前だよ。オレの親、軽く過保護だし。

男    よこせ

浩太   嫌だよ

男    いいからよこせ!誰かに連絡されたらたまったもんじゃ…

浩太   そっかぁ、おっさん、オレに通報されたら困るんだ。

男    なんだよ、その顔

浩太   いやぁ、いいこと教えてくれたなぁと思ってさ。どうしよっかなー今すぐ110番しようかなぁ

男    ちょ、ちょっと待て。少し落ち着いた方がいい。な、何が要求だ?

浩太   フッ、飯だ。飯を用意しろ。オレは腹が減ってるんだ。今すぐ用意しなければ(さっとケータイを構える)
      コイツを、こうするぞ

男    待て、その手を止めろ。用意してやるから、待っていろ。何が良いんだ?

浩太   フン、最初からそうしてればいいんだよ、おっさん。今すぐここに高級フランス料理フルコースを並べろ
      さもなくば…

男    分かった、今すぐシェフを呼んでみせる。お前の要求は呑んでやる。だからそのケータイの自由を保証しろ

浩太   やだね。こいつがどうなろうが俺には関係ない。こいつがどうなろうと知ったことじゃねぇ

男    くそ、大人しく待ってろ



 男は下手にはける。浩太は男が遠くに行ったことを確かめる。



浩太   へへっ、おっさんなかなかの熱演、ご苦労さん。さぁて、フルコースが来るまで何してようかなぁ…



 辺りをキョロキョロ見回し、男が置いて行った鞄を見つける。



浩太   何だアレ。(中をのぞき、順番に中身を出す)
      サラダ油。おたま。石鹸。にきびクリームにガムテープに……ミルキー?これってもしや主婦の買い物袋?
      (ティラミスを発見)何だこれ?美味そう。フォークとかないかな。(リュックの中を探る)あった。
      いただきまーす。(食べ始める)
      うまっ。確かこれ…ティラミスっていうんだっけ?母さんが好きだって言ってた気がする。
      甘すぎず苦すぎずで…うん、うっめぇ。誰の落としもんだろ?でも誰も来ないし…賞費期限まであと1時間もないし、
      駄目にしたらもったいないし。別に置いてった奴が悪いんだからオレは悪くないよ…はぁ、ごちそうさま。
      (広げた鞄の中身を眺める)良いこと思いついた。



 浩太は下手に段ボールを積んで小さな門を作りその間にロープを張る。
 ロープの下手側の床にビニルシートを広げ、サラダ油をこぼし、その上に丸めたガムテープを転がす。



浩太   よし、完璧。



 満足そうな顔で段ボールに腰掛ける。
 下手より、ビニル袋を提げた男が帰って来る。



男    待たせたな!さぁ要求の品は此処だ!…ん?なんだ?(にやにやする浩太とトラップを見る)
      ははーん、こんなロープに俺はひっからないぞっと



 男はロープをまたぐ。またいだ左足が油で濡れている床に降りて滑り、前につんのめる。
 後ろ脚がロープに引っ掛かり、門として積まれていた段ボール箱を崩す。
 ビニルシートの上にダイブして、丸められたガムテープが顔にくっつく。
 浩太はそれを見て大笑い。



浩太   だっせー。引っかからないって言ったの誰だよ?
      予想通りに引っ掛かってくれるなんてサービス良すぎだよ、おっさん!
      それで、フルコースは?

男    こ、これが俺の限界だった…(手にしているビニル袋を浩太に差し出す)

浩太   (袋を受け取り中を覗く)なぁおっさん、コンビニのカルボナーラって…
      フランスじゃなくてめちゃくちゃイタリアンなんだけど。
      …ま、いっか。腹減ってれば何でも御馳走だし。オレ、カルボナーラ好きだし



 浩太が食べ始めているのを横目に、男は立ち上がり後片付けをする。
 近くに落ちていたボロ布で足元の油を拭き、スニーカーのゴム底を拭く。
 段ボールは舞台奥にまとめて置き、ロープは手早くまとめる。



浩太   ん〜うま〜

男    お前、いつもはもっと良い物食ってんだろ?あの金持ちの名嘉城の跡取り息子なんだからよ

浩太   まぁね。オレの父さんは金持ちだし、その息子のオレも金持ちの一人だよ。
      でもさ、B級グルメって言葉あるじゃん?料理は値段じゃなくて味だよ、味。
      駄菓子もさ、中にはほっぺ落ちそうなほど美味いヤツもあったりするわけ

男    贅沢なガキだなぁ

浩太   さっき食べたティラミスだって、コンビニのケーキとは思えないくらい美味しかったしさ。
      (パスタの容器を片づける)ごちそうさま



 男はサラダ油を鞄に戻そうとして、ティラミスがなくなっていることに気がつく。



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