浩太   ご愁傷様。
      なんだったらオレみたいな男子中学生じゃなくて、
      いかにも扱いやすそうな小学生の女子でも連れだせば良かったんだよ。
      俺が可愛いからって…はぁ、罪作りなオレ。
      大体、おっさんは何のためにオレを誘拐したの?もしかして如何わしい店に売り飛ばそうとか…

男    ちげぇよ。金が欲しいだけだ

浩太   ふぅん、だったら三千万だなんて中途半端な金額じゃなくて五千万、いや一億とか、もっとすごい大金にすれば良いのに

男    俺は三千万が欲しいんだよ

浩太   だから…何のために?

男    うるさい。お前には関係ねぇだろ

浩太   あるよ。だってオレは被害者だし?事の全てを知る権利くらいあるじゃん。
      で、おっさんはその金で何がしたいの?遊んで暮らしたいの?それとも欲しいものでもあんの?

男    ………

浩太   ちぇ、だんまりかよ。オレが学校行く途中で、オレのこと変な薬で眠らせておきながら

男    ただの睡眠薬

浩太   縄で縛って変な麻薬庫の中に閉じ込めて

男    ただのオンボロ倉庫

浩太   それでオレを殺すために銃なんか持ち込んじゃったりして…

男    別に殺すつもりなんてねぇよ

浩太   え?おっさん、本当に銃持ってんの?どうやって手に入れたわけ?
      どんなの?カッコいい?ちょっと見せてよ。別に見るだけだからさ



 男はベルトに下げていた銃を浩太の目の前で見せる。



男    …ちょっとだけだからな。

浩太   へぇぇ、すげぇ…本物?ねぇコレ本物?(素早く男から銃を奪う)
      思ったより重いんだなぁ、これ。すげぇカッコいいー。(打つ真似をしながら)オレこう言うのに憧れてたんだ。
      中学生刑事かぁ。いい響きだなぁ。えーと、確かココをこうして、こうすると…



 大きく銃声。男、怯む浩太から銃を奪い返す。



男    バカ野郎!何しやがるこのガキ!死にてぇのか?

浩太   あぁ、吃驚したぁ。ごめんごめん。本当に撃てるなんて思ってなくてさぁ。すっげぇな、もう一回撃ちたいな。
      ねぇおっさん、もう一回貸してよ!今度はへましないから。一分、ううん、三十秒で良いから!

男    この、くそがきゃぁ…

浩太   そんな怖い顔しなくたっていいじゃん。
      まさか本物の銃に触れるなんて夢にも思ってなかったから、テンションあがっちゃってさ。
      だってその銃、すげぇかっこいいんだもん。ドラマとかに出てくるのと一緒だし。
      おっさんだって、こういうのに憧れてたんじゃないの?
      (刑事ドラマ風に)いいか、人質は女、子供計三人。このままじゃ夜が明けちまう。ここは強行突破するしかねぇ。
      おい、オレが三つ数えたら突入するぞ、いいか。

男    (浩太の背に立つ)はい、名嘉城のおやっさん。準備OKです。

浩太   (男に向かい)よし、お前は右へ行け。(反対側を向く)そしてお前は左だ。

男    (浩太の視線の先に立ちなおし別の刑事になりきる)りょ、了解です、名嘉城さん。

浩太   よし、行くぞ。いち…にの、さ…

男    ってちょっと待てよコラ!何で俺がお前のごっこ遊びに巻き込まれなきゃならんのだ!
      しかもどうして俺がお前の部下役なんだよ!

浩太   ちぇ、良いとこで止めないでよ。おっさんのケチー。今すっげぇ気持ち良かったのにさぁ
      おっさんだってガキの頃、こういう風に刑事ドラマに憧れたりしなかったの?
      張り込み中の牛乳とあんパンは男のロマンで、取り調べに疲れ切った犯人にかつ丼をおごるのが男の夢なんじゃないの?
      血で濡れた殺人現場に漂う愛と憎しみのサスペンスとかさ。
      家政婦がドアの隙間から『あら旦那さま死んでる』なんつってさ

男    お前、絶対火曜サスペンス劇場とか好きだろ?

浩太   え?悪い?だって面白いじゃん。旅先の宿に手起きる湯けむり殺人。夫への愛を失い殺した保険金殺人。
      恨みが殺意を呼び、金が人を惑わす遺産相続の現場…

男    今時のガキは…何でも知ってるかのような口利きやがって…

浩太   おっさんは嫌いなの?二時間ドラマ。

男    そういう話じゃねぇよ。せめて、憧れるなら、ほら、ヒーローとかじゃないのかっつってんだよ。

浩太   あー、ヒーロー?特撮?アニメ?そんなの小学校低学年で卒業だよ。
      あんなの子ども騙しなだけでつまんないし、ワンパターンだし。今どきオレみたいな中学生で
      ヒーローに憧れてるのなんてオタクくらいだよ。
      何?おっさん、オレくらいの歳のときに特撮ヒーローに憧れてたの?
      どぎつい色のタイツを全身に身にまとったおっさんに憧れてたわけ?

男    ちげぇよ。俺は、ヒーローなんか興味無かったさ。俺は…どっちかっていうと、悪役、の方…だったな。

浩太   ふぅん。



 再び刑事ドラマ風に。中央のみかん箱を二人で挟んで座る。
 トップサスが二人の周りを抜く。



浩太   いい加減白状しろ。お前がやったのか?…お前がやったのかと聞いているんだ

男    …やってない

浩太   じゃあ潔くすべてありのままに話せ。一週間前の午後六時半ごろ、お前はどこで何をしていた?

男    ………二丁目のパチンコ屋で手持ちの金がなくなるまでパチスロだよ

浩太   ほぅ、それはどこのパチンコ屋だ?……お前の言っている二丁目のパチンコ屋ジャンジャラはな、
      その一日前に閉店日だったんだよ。

男    …そうだ、二丁目じゃねぇ、あの日は三丁目の

浩太   (かつ丼を差し出す)もう、悪あがきはやめようぜ。これ以上ねばっても、お前は無理だ。
      悪いことはいわねぇ、さっさと吐いて楽になれ。…田舎のおっかさんが待ってるんだろ。
      さっさと素直になれば、その分早く帰れるようになる。素直になって、これ食え。
      俺のおごりだ。腹、減ってんだろ。

男    刑事さん……俺、俺…本当は…(泣く)
      ってちょっと待てーぃ!それでどうして俺が殺人犯になるんだよ



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