幕開き。舞台上に立つ男をピンが抜く。



男    ガキの頃から、俺はどこか人と違うことをしたいと思っていた。
      ガキの遊びで皆がヒーローの役を取り合っている時は、俺だけが悪役に手を挙げていた。
      俺の目には派手な技名を叫んで単純なだけの必殺技を繰り出すヒーローよりも
      自分の目的のためなら手段を選ばない悪役の方がカッコ良く見えたんだ。
      奇麗事を並べて都合のいいタイミングで現れるヒーローはどこか嘘っぱちで、悪役こそ人間そのものだと思ってた。
      ヒーローに憧れるガキどもの中で、俺だけが悪役みたいに生きていきたいと思ってたんだ。
      でもそれはガキの頃の話。今じゃ、やっちゃいけないこととやっていいことの区別くらいつく。
      けどよ、人間なんて一生ヒーローになんてなれない。さらわれるような可愛いお姫さまだっていない。
      それなのに悪役みたいな人間はそこらじゅうにいる。
      この世にいるのは悪人と泣き寝入りしてる被害者くらいだ。
      ガキの時代を卒業した俺は、こんな世の中にいい加減うんざりした。
      たった数日の戦いだ。そうすればこんなみじめなところから這い上がれる。犠牲は仕方がない。生きるためなら。
      生きるためなら理性なんて必要ない。今の俺なら何だってできる。
      …待ってろよ、梨香。もう少しの辛抱だ。



 男、下手にはけた後、明転。
 薄暗い倉庫の中。段ボールやら木箱やらが乱雑に置かれている。
 舞台中央にみかん箱。みかん箱の上には作りかけの脅迫状。
 舞台隅に縄やビニルシートなども散らばっている。
 上手の段ボールの陰から、両手両足を縛られた浩太が這いながら舞台中央へ出てくる。



浩太   くっそ、あのおっさんなんてことしてしやがる。
      つか、ここどこだよ。埃くせぇ。(咳こむ)暗いし湿気たっぷりでカビ臭いし…さっき見たことない虫が走ってたぞ。
      俺を殺す気なのか、あのおっさん。オレこんなとこにいたらマジで病気になってすぐ死んじゃうよ



 浩太は手足のロープを外そうと身をよじる。
 無茶であると察してから、舞台上を這って鋭利な刃物を発見する。



浩太   ラッキー

 ロープを外し、浩太は立ち上がって手足をさする。



浩太   あーあ、跡付いちゃったよ。きっと明日には、みみず腫れになってんだろうな。(想像して)気持ち悪っ。
      何か頭痛くてよく思い出せないんだけど…埃臭いコンクリの建物の中。今オレは手足を縄で縛られてて…
      (段ボールの上の脅迫状に気づく)なんだ、コレ。
      『名嘉城浩介は頂いた。返してほしいなら三千万円を用意しろ。誘拐犯より』
      この状況って…もしかして俺、誘拐されたの?これが俗に言う誘拐ってやつ?
      だとしたら…カッコ悪ぃ脅迫状!頂いたって…怪盗じゃないんだからさ〜、もうちょっとカッコイイの作ろうよ。却下。
      あのおっさん、結構バカなんじゃねぇ?バカっぽい顔してたもん。犬みたいな。
      そうだ、おっさんが来るまで隠れてよう。きっと驚くぜぇ、しし。



 浩太は段ボール箱の陰に隠れる。
 男、下手より現れる。



男    そろそろアイツの目が覚める頃か。おびえて泣いてるかもな。
      こんにちは名嘉城浩介くん、ご機嫌いかがか…ってアレ?確かココにいたはずだよな…(浩太を探す)
      おーい、浩介くん、浩ちゃーん。どこですかー



 浩太、段ボールの陰から大声を出しながら飛びだし、男を追いかける。男、慌てふためく。



浩太   食べちゃうぞー



 男、浩太の声を聞いて一瞬で冷静になり、立ち止まる。男を追い越そうとした浩太の首根っこを掴む。



男    お前…どうやって縄外したんだよ…?

浩太   ちょ、おっさんやめてよ、離してよ!



 手足をジタバタさせてから、なんとか男の手を振り払う。



浩太   痛いなぁ、たくもう。
      …のこぎり用意してくれたの、おっさんじゃないの?
      わざわざオレのために用意しといてくれたんだと思って、コッチは感謝してたのに

男    わざわざ人質を逃がすわけねぇだろ

浩太   あ、そっか。じゃあおっさんは詰めが甘かったのか。バカだなぁ

男    縄ほどいたくせに逃げないお前に言われたかねぇよ

浩太   だって、俺家帰っても暇なんだもん。塾サボる口実が出来たし。なぁおっさん、俺と遊ぼうよ

男    お前、自分の置かれている状況分かってんのか?

浩太   もっちろん。馬鹿にしないでよ。俺は誘拐されて、殺される寸前。

男    別に殺そうとなんて思っちゃいねぇ。お前が逃げなきゃな

浩太   ほら、おっさん、俺が逃げなきゃいいんでしょ?口答えしたら、オレ、逃げちゃうよ?
      おっさんが大人しく俺の相手してくれたら、騒がないでいてあげる

男    人の足元見やがって……第一、俺はお前におっさんなんて呼ばれる歳じゃねぇぞ

浩太   え?

男    言っとくが俺はまだ十九だ。成人にもなってねぇよ

浩太   そんな老け顔で十九?笑わせないでよ。おっさん、最近ニュースで人気の三十過ぎのニートでしょ?
      もしも本当に十九でそんなに老けてるんなら、よっぽど苦労してんだね。
      もしかして親がアル中だったり借金まみれだったり結婚詐欺にあったりだとか…そんなお昼のドラマみたいに
      ベタで複雑な家庭事情があったりするわけ?(男の顔をじっと見る)…ないない。
      でもだからってこんな…いたいけな十二歳を誘拐しなくたって。
      誘拐だなんて、こんなこと始めちゃってさ。もっと面白いこといっぱいあるじゃん。
      十九歳だったら彼女作って青春真っ只中っていう時期じゃないの?
      もしかしてもしかすると、おっさん女の子に振られたばっかりだったりする?
      そっか、そうだったのか。だから我を忘れてオレみたいな可愛い男の子をさらって行っちゃったわけか。
      うんうん、大丈夫、おっさんだって頑張れば可愛い彼女の一人二人、今すぐできるよ。その…ダサい格好止めればね

男    余計な御世話なんだよ、くそガキ。殺されてぇのか?

浩太   うそうそうそ。やめてよ。仲良くやろうよ、おっさん。ね、オレを殺しても何の得にもならないって。
      だっておっさん、まだ脅迫状も送ってないんだろ?ここに造りかけで置いてあるってことは。
      こんなしょぼいの止めて、もっと派手なヤツ送ろうよ。母さんがびっくりして泡吹くようなやつ。
      うーん、そうだなぁ、もっとこう、凶悪犯が出しそうな感じ。
      『お宅の息子の命が惜しければ全財産ありったけ用意して来いや』みたいな!
      新聞の切り抜きなんて昭和の犯罪の匂いがプンプンしてダサいからさ、ワープロ打ちの血文字にしようよ!

男    ふざけんなよ、これは遊びじゃねぇんだ。お前、ふざけてんのか?

浩太   大真面目だけど。

男    (大きくため息)何で俺、こんなめんどくせぇガキを選んじまったんだろ



NEXT→