場面戻る。三人の間に幸子が初めから参加していたかのように入り込んでいる。
 三人ともそれに気がつかない。



親分   ってなわけの分からねぇ笑えもしない流れで、こいつは俺んとこに転がりこんできやがったんだよ。
     話聞くと家出して飯がないって言うしよ。しかもその家出の理由が

子分   自分探しの旅に出たかった!

親分   とかいうくだらない話でよ。使えない上に飯はいっちょ前に食いやがる。
     依頼はへぼをして依頼人を怒らせる。おかげで借金が返せなくなってこのざまだ。
     唯一の事務所も売り飛ばされちまった

子分   へへ、オレも若かったんすよ。青の時代。青春ってやつですよ

博幸   へぇ。でも、今までずっと追い出さなかったんですか。そんな縁は切ってしまえばよかったんじゃないんですか?

親分   約束は約束だからな

子分   親びんは器の広い大人なんだ

幸子   素晴らしいですわね。今まで二人で苦難を乗り越えていらしたんですわね(涙をぬぐう真似)



 三人、いっせいに視線を幸子に向ける。
 舞台上のみでわずかな追いかけっこをする。幸子がかぶっていた親分の帽子は、おいかけっこの時に落ちる。
 落ちた帽子を子分が拾い上げ手にしたまま、おいかけっこは続いている。
 幸子が子分をかわした時の隙を見計らい、博幸が捕まえる。
 博幸の気迫で舞台上の空気が一変する。



博幸   さぁ、幸子さん。大人しく帰りましょう。父さんが貴女のことを待っているんだ

幸子   離して!博ちゃん、どうして貴方はいつもこういう酷いことをするの?
     お母さんは、そんな子に育てた覚えはないわよ

博幸   どうしてこういう時だけ調子良く母親面するんですか!(振りはらわれる)
     いい加減、現実を見てくださいよ!

幸子   もうね、飽き飽きしたの。私の王子様はいなくなってしまったのよ

親分   それで、逃げても仕方ねぇだろう

幸子   ……帰るわ!帰ればいいんでしょう?私は、私はね…(手で顔を覆ってうずくまる)

博幸   何で貴方はいつもそうなんですか?頼むからこれ以上振り回さないでくれ。
      あんたといっそ縁が切れたらどれだけ楽か

親分   そんな風に言うなら、切っちまえばいいじゃねぇか。そうすりゃ解決するんだろう?違うか?

博幸   ………貴方には関係ないですから

親分   あんたは俺の依頼人。俺はあんたに雇われてる身だ。無関係なんてことあるか?

博幸   ここからは家族の問題だ

子分   そういう態度だから、あんたの母さん何度も家出するんじゃねぇの?

博幸   (鼻で笑う)そんなわけないでしょう。この人の頭が現実離れしてるのが一番重要な原因ですよ

子分   ほら、そういうとこ

博幸   …何が言いたいんですか

幸子   お母さんはね、寂しいの。博ちゃんがまるで親の仇の様な目で見てくるんですもの。
     博ちゃんに放っておかれるのだけは耐えられなかった
     だってこうでもしないと博ちゃんは、お母さんのこと少しも考えてくれないじゃない

博幸   だからって家出なんて子供みたいなこと…貴方は童話の中のお姫様じゃないんだ。ただの主婦だ。
     泣けば済むのは幼稚園児くらいですよ
     貴方なんて独りじゃ生きていけない。俺や父さんがいなかったら何も出来ないクズです

親分   それが自分の親に言う言葉か?

博幸   ええ。これくらいキツく言わなくちゃ、叱られていると分からないんですよ。
     いっそ二度と帰ってこなければ気が楽なほど厄介なんですよ、この人は
     貴方には分からないでしょうね。貴方みたいな社会のしがらみから逃げたした人間には



 親分は博幸の胸倉を掴んで数秒睨んだ後、つきとばす。
 その様子を見ていた子分が慌てて心配そうに親分に駆け寄ったあと、博幸につめよる。



親分   勝手にしろ

子分   親びんに謝れ

博幸   何をです?

子分   親びんに酷いこと言うな。親びんに謝れ。
     親びんは、表の世界を自分から逃げ出したんだじゃない。放り出されたんだ。自分の親に。
     もしこのまま親びんが死んだら、オレ以外誰も見送るやつがいないんだ。
     その気持ち、あんたにはわかんないだろ?

親分   …ばっ、この野郎。余計なことを…

子分   じゃあ親びんの口から、ちゃんと言ってくださいよ。オレ、親びんが言えないんだったら
     全部代わりに言っちゃいますよ。…親びんがこういうことに対して我慢できないって、俺が一番知ってる。
     言わないまま後悔するのは親びんの方じゃないんですか?



 子分、帽子を脇に置き、真剣な表情で親分を見つめる。
 負けたように親分は自嘲的に微笑む。



親分   人間なんて所詮、身勝手なもんだな。
     …あんたらが知らないだけで、この世には帰りたくても帰れない人間がいるんだよ。
     あんたらは自分の幸せに気付かずにわざわざそれを自分からそこらに捨てるつもりか?
     食いもんにも寝る場所にも困ってない。帰ればだれかがそこで待っている。
     そんな幸せを、気に食わないっていちゃもんつけて捨てんのか?
     (幸子に向け)あんたもあんただ。泣いてちゃ分からない。
     そりゃ気に食わないことだってあるだろうよ。腹立つこともあるだろう。
     でもそれを誰かに伝えなきゃ、何も変わらないだろう?遠回しなことをやって話をこじらせてどうする?
     ちゃんと口がついてるんだ。言いたいことを言ってみろ

幸子   ………帰りたい。博ちゃんと。あの人のいる家に。そして昔みたいに笑って暮らしたい

親分   この通りだ。アンタ、自分の母親のこと、分かってあげられなかったんじゃないのか?
     あんたら、半分ずつ同じ遺伝子を持った親子のはずだろ?

博幸   貴方だって、その親とやらとは分かり合えてないじゃないですか

親分   …あぁ。まったく、おかしな話だがな。

博幸   だったらこんな説教、出来ないはずだ

親分   でも生憎、一人出来ちまってね。俺が死ぬまで俺を裏切らないって言い張る奴が。
     そいつは美味そうに物を食うのと無条件に人を信じることと
     情に反した悪いことが出来ないくらいしか取りえがない役立たずだ。
     でも俺のことを分かってる唯一の存在で、いつの間にか俺もそいつを分かっちまった。
     だから面倒見てやってる。一緒にいる俺が死んだ後始末を任せられる人間がいる。
     それだけで俺は死ぬのが怖くなくなった。生きるのも怖くなくなった。俺は世界で一番の幸せ者だと思える。
     そんなやつがいる人間は、家出なんてしない。俺は少なくともそう思う。
     その女にとっての王子様ってのは、そういう存在なんじゃないのか?
     だからその女は、あんたが自分への興味をなくした、と不安に思う度に家を飛び出すんじゃないのか?
     ちゃんとあんたが追いかけて引き戻してくれるか確かめるためにな。
     親父さんじゃ足りない部分を補う、第二の存在はあんたなんじゃないのか?
     あんただって本当は心配なんだろう?じゃなかったらこんなところに、たった一人で探しに来ないよな。
     それこそ警察に捜索届を出す方が楽だ。わざわざ自分で歩いて連れ戻しに来るなんて、心配してる証拠。
     あんたらは自分たちの立場を自らの手で追い詰めて苦しめてるだけだ。
     少し落ち着いて、自分の持ってる幸せについて見つめなおすと良い。
     そうすりゃ、自ずとどうすればいいのかあんたらには分かるはずだ



NEXT→