沈黙。幸子静かに語り始める。
幸子 博ちゃん。母さんを許して頂戴。母さんね、いつも特別でありたかったの。誰かの特別でありたかったのよ
いうまでもなく博ちゃんは母さんの特別な存在だった。だけどその博ちゃんは母さんからどんどん離れていく。
だから………。
でも母さん、間違ってたわね。博ちゃんは家にいるのにそこから逃げ出してしまうなんて
博幸 母さん…
幸子 博ちゃん、一緒に帰ろう。久しぶりに手を繋いで帰ろう(手を差し出す)
博幸 あぁ、父さんも待ってる。(手を繋ぐ)
(親分に向かって)ありがとうございました。報酬は後を追って支払わせていただきます。
また何かあった時は、よろしくお願いします
親分 あぁ、達者でな
幸子と博幸は手を繋いだままはける。
見送る親分と子分。感傷的になっている親分の後ろで、空気の読めない子分。
親分は子分が置いた帽子を手に取る。
子分 (泣きながら)おおぅ親びん、感動っすね!親子の絆っていいっすね!
それに…親びんがオレのこと、そんな風に思ってくれてるなんて…
オレ、てっきり嫌われてるんだとばっかり…おぅおぅ…嬉しいっす
親分 おい、誰がお前のことだって言った?
子分 へ?
親分 (背中を向け、空を見上げて)空が青いな、ちくしょう。
子分 …雨降りそうなんすけど、親びん?誤魔化さないで下さいよ、親びん、ねぇ親びん?
親分 うるっせぇな、お前は!さっさと次の依頼人探しに行って来い!
子分 ちょ、親びん?親びんってば、ねぇ親びーん!
歩き出した親分を追いかける子分の声が大きくなると同時に徐々に暗転。
明るい曲が流れ、明転。舞台上に親分と子分が歩いている。舞台端のセットの陰から幸子が親分を見ている。
二人の会話の途中で二人に近づく。
子分 親びん、ウエディングドレスはどんなんが良いすか?
親分 誰のだ?
子分 もちろん親びんのですよ!やっぱ白っすよね!今すぐ採寸に行かないと間に合わなくなっちゃいますよ!
走りだそうとする子分の首根っこを親分が捕まえる。
親分 俺が誰と結婚するって?
子分 もちろんオレと(幸子の一撃を受け吹っ飛ぶ)ごふぁっ
幸子 許しませんわ、私の王子様を取らないでくれませんこと?
親分 ぎゃあ、あ、あんたは…!
幸子 えへっ☆
子分 またこの女、家出してきてるじゃないすか!
幸子 違いますわ。家出したのは私じゃなくて博ちゃんの方
どさくさにまぎれて幸子は親分の片腕にひっつく。
博幸、走って舞台上に現れるや否や親分の足元で土下座。必死に親分にすがりつこうとする。
博幸 お願いします!俺の母さんになってください
貴方みたいな強い女性が俺の理想の母親像だったんです!なってくれるまで帰りません!
親分 今度はお前か!
幸子と博幸にくっつかれた親分が、二人を振り払ってから逃げ出す。
親分の後を博幸が追いかけ回し、その後ろを幸子が追いかけ走る。
その光景を見た子分が耐えきれないように叫ぶ。
子分 なんで皆してオレから親びんを取ろうとするんだよ!親びんはオレのお嫁さんになるんだぞ!
子分もおいかけっこに加わる。
足を滑らせ転んだ親分の手足を博幸、幸子、子分が引っ張り合ったまま幕。