博幸 やっぱり。王子様だか何だか夢見てるみたいなこと言ってたでしょう?
親分 …確かに。
つかまえてね王子様〜とかなんとか
博幸 あぁ、どうりで。じゃあ追いかけなくても大丈夫ですよ。ここで待っていれば
親分 どういうことだ?
博幸 貴方のことを気に入ったんですよ。もちろん母が。
親分、博幸の発言に固まる。子分、親分を少し離れた所に座らせてから、会話を続ける。
子分 それで、どうしてオレたちの協力がいるんだよ?
博幸 協力って言い方が悪かったですね。貴方たち、いや親分さんが此処にいてくれればいいんです。
ここで待っていれば母の方からまたやってきますよ
子分 どういうこと?
博幸 母は親分さんに追いかけられるのを望んでるんです
子分 そっか、王子様との浜辺ごっこってやつ?
親分 はぁ?
博幸 …そう呼ぶかはわかりませんけど、母の頭の中では薄暗い路地裏でも
気に入った男に追いかけられた途端、舞台は砂浜になるんですよ。古いマンガとかのラブコメディによくあるでしょう?
憎らしいほど二人の世界に入り込んでいるカップルがいちゃいちゃしながらおいかけっこをしてるシーンです。
ああいうのが母の夢というか願望らしくて。若いころ、父と二人でそんなことばっかりやってたんで
子分 親父さんも共犯だったわけか
博幸 恥ずかしい話ですけど事実ですから。
きっと誰も追いかけてこないと分かれば、また何か口実を作りに来ますよ。
貴方が母を追いかける理由ってやつをね
親分 …なるほど。じゃあ追いかけ回すのは逆効果ってわけか。
確かに話の筋は通ってるな。よし、あんたの戦略に乗ろう
子分 親びんが乗るならオレも!
親分 お前は関係ねぇ。さぁ、あんたは今俺のお客って立場から依頼人になった。
子分 ちょっと、親びん、ちゃんとギャラ交渉は済ませておいてくださいよ
親分 俺の仕事に口を挟むなっつってんだろ(頭をわしづかむ)
子分 うぅ…すいません
博幸 心配しなくとも、母が家に帰ってくるなら報酬は払わせてもらいます。
さて、待ちましょうか。焦りは禁物ですから、気長にね
博幸が座りこんだのを見計らい、親分と子分も近くに座りこむ。
幸子がこっそり入り。客に手を振り、袖幕の前に座る。三人の方をうかがっているが、三人は気がつかない。
博幸 ところで、何で貴方達はこんな仕事をしてるんです?そんなに儲かりますか?
子分 いいや、全然(親分に口をふさがれる)…ふんがっふふ
親分 生憎さっぱりだ。俺は儲けのために何でも屋になったわけじゃねぇからな
博幸 じゃあ何のために?
親分 この仕事が性に合ってんだよ。そんなんでいいだろ。大事なのは理由じゃない。
理由なんてのは後からいくらでも作れるからな。それに表の世界で生きる気はさっぱりないんだ
博幸 その格好も?
親分 好きでやってるわけじゃねぇよ。生きるためさ
博幸 ………?(首をかしげる)
親分 そりゃ、分からないだろうな。…俺たちみたいな職業は、信頼が大事だって言っただろ?
コイツなら頼れる、そう信頼されて初めて仕事や依頼は任されるもんだ。
世の中男も女も同じだって奇麗事言う奴がいるけどよ、中には女なんかにはできない仕事があるって
思いこんでる奴がゴロゴロいるわけだ。こっちの世界じゃ尚更な。
確かに男と女はそもそも違う。でもハナッから俺を見て女には何も任せられねぇって思われたらお終いなんだよ。
仕事がなくちゃ生きていけない、そうだろ?ただ、それだけだ。
……疑問か?何でそこまでこの仕事に執着してるんだって顔だな。
率直にいえば、この仕事が、人助けってのが好きなんだよ。俺もただのバカなのさ
子分 (拍手)おおぉ、親びんカッコいい!オレ、感動しました!親びんの男としての生きざま凄いっす!
その心意気に涙っす!オレ、何があっても親びんに一生ついていきます!よっ、日本一!
親分 (照れ気味に)だから、いちいちお前は暑苦しいんだよこの野郎!
博幸 それで、そっちの…子分の人はどうしてこの仕事を?
子分 え?聞きたい?オレと親びんが出会ったきっかけ。うーん、話すとなると三日かかっちゃうんだけどなぁ
それでも聞きたい?どうしても聞きたい?死ぬまでに一度は聞いといた方がいいとはオレも思うけどさぁ
え?そっか、それならしょうがないなー話してやるよ耳の穴ちゃんとかっぽじって…
親分 いい加減にしろ(子分を小突く)
子分 あうぅ
親分 コイツはな、突然半年前、俺の事務所に潜り込んできたんだよ
回想。セピア色のぼんやりとした照明。博幸と幸子の姿がほんの少しまぎれる。
座っている親分とその足元をトップサスが照らす。暗がりから子分が飛び出し、突然土下座をする。
子分 親分、た、助けてください
親分 …お前、誰だ?俺は弟子と子分は作った覚えはねぇぞ
子分 親分はオレの人生の先輩っす。尊敬の気持ちを表すために親分と呼んでるだけっす。
親分 はぁ?話にならねぇな。依頼するつもりがないなら帰りな。ここはお前みたいな中坊がいるとこじゃねぇんだよ
子分 お願いですから助けてください
親分 こちとらお前みたいのを助ける義務もないんだよ
子分 オレ、もう、死にそうなんです。他に頼る人もなくて…目の前がかすんできて…もう、もう…
オレ、まだやりたいこといっぱいあるんすよ…ここで、こんなところで死ぬわけには…
親分 …ち、仕方ねぇ。依頼として受けてやるよ。話してみろ。ただし、しばらく俺の下でタダ働きしろよ
子分 す、すまねぇっす…そ、それが…
けたたましい腹の音。
子分 オレ、腹が減って死にそうなんです…
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