幸子   子分さん、親分さんはどこかしら?

子分   あっ、あんた、そんなとこにいたのか!親びんの帽子、返せ!

幸子   嫌ですわっ。約束は守ってもらわなくては

子分   いいから返せよ!



 博幸、下手より入り。逃げるように幸子、はける。追いかけようとする博幸を子分が引き止める。



博幸   幸子さん!こんなところにいちゃだめだって何回言わせれば気が済むんですか!

子分   ねぇ、あのさ、もしもし?ちょっといい?あの女の名前、幸子っていうの?

博幸   えぇ。幸せの子供と書いて。

子分   あのさ、またとか何度とか、さっきからあんた言ってるけどさ、あの女、何度もいなくなったりしてるわけ?

博幸   えぇ、そうなんです。かれこれ…二十四回目ですか

子分   うわぁなにそれ。あの女、どっかから逃げ出してんの?

博幸   逃げ出すというか…単純に一言でいえば家出なんですよ

子分   あぁ、何だぁ

博幸   何だぁ、って何ですかその言い方

子分   だって家出ならさ、ほっときゃいいじゃん。幼稚園児でもないしさ。
     手持ちの金がなくなったらすぐお腹ペコペコになって帰ってくるよ。
     それまでカラオケボックスとかネットカフェとか、金があれば時間はいくらでも潰せるんだからさ。

博幸   そんなの危ないじゃないですか。

子分   別に。オレと親びんが会ったのだって、オレが家出した中二の時だったんだぜ?

博幸   中二の家出とは違いますよ。…あの人は、本当に何をするか分からないから困るんだ

子分   ねぇさっきから聞こう聞こうって思ってたんだけどさ、あんたあの女とどういう関係?身内?恋人?

博幸   母です。

子分   ふぅん。お母さんねぇ…って、えぇぇぇ?母ってマザー?母ちゃん?マミィ?あの母ちゃんからアンタ生まれてきたの?
     参観日にはあれが更に若い状態で保護者の中にいたわけ?そんなわけねぇよな?
     あ、どうせあんたの親が再婚したときの義理の母親とかそんなオチだろ?
     自分の母ちゃんを名前でさんづけってのも義理の母親って感じじゃん、いかにも

博幸   いいえ。れっきとした私の産みの親ですよ。中田幸子。四十二歳。専業主婦。
      幼いころから母のことは名前で呼ぶように言われてきたんです。母さんって呼ぶと怒るんですよ。
     自分はまだ若いって思ってるらしくて

子分   嘘つけ。んな話…マジかよ?あの女が四十二?あの女の名前が幸子…ならアンタは?

博幸   中田博幸です。博士の『博』と幸せで博幸

子分   うわ、ちゃっかり一字もらってるし。親子確定かよ

博幸   そんなに信じられないほど似てませんかね?ご近所では結構似てるって言われるんですけど
     ほら、良く考えれば似てるってことないですか?

子分   ………いやいやいやいや、オレは騙されない、絶対騙されないぞ。そんなマンガみたいな話…



 幸子、スキップで入り。二人の目の前を通り過ぎてから足を止め、声をかけてすぐにはける。
 舞台上には予想外の出来事に固まる子分と、追いかけるタイミングを逃す博幸が残される。



幸子   お母さんは博君なんかには捕まりませんよーだ!お母さんを捕まえるのは王子様だけなのよー

子分   (幸子のセリフを聞いて)あるんだ…

博幸   今の…聞きましたか?いつもあんな調子で。あの人の頭の中はメルヘンのお花畑なんで。嫌にもなりますよ。
     あんな頭のおかしい人が自分の親だなんて…もういかんせんこの歳になって慣れましたけど。
     でも慣れってのも怖いもんですね。あれだけ嫌だ嫌だと思っていたのに。

子分   そりゃ、少しおかしいかもしんないけど、そこまで言うことはないんじゃないの?

博幸   言ってなきゃやってられないんですよ。子供が親を選べないこの世界を何度恨もうとしたことか
     どんな人間でも、現実として自分の親なんですからね。

子分   ………そうだけどさ。アレがお母さんならあんたの父親は?父親はまともなんだろ?

博幸   しがないサラリーマンですよ。今じゃただの腹巻の似合うおっさんだ

子分   王子様、とかなんとか言ってたけど

博幸   えぇ、もともと幸子さんは…母は父に一目ぼれして結婚したんです。王子様はあなたしかいないってね。
     でもその巡り合った王子も二十五年経てばただのおっさんになりますよ。老けないのはあの人くらいだ。
     夢を見て叶った挙句がムサいおっさんになった王子との人並な生活ですからね。

子分   それで耐えられなくなって…家出したってこと?

博幸   だからかなんだか本当のところは本人しか分かりませんけど、そんなとこでしょうね。
     ここ数年ふらりと家を飛び出してしまうことが増えて、困ってるんですよ。
     いつ犯罪に巻き込まれるか、心配で…人様に迷惑だけはかけてほしくないですから



 親分、幸子を追いかけてきた様子で入り。



親分   (肩で息をする)……ちくしょう、あの女、ちょこまかと…足だけは早いんだからよ…

子分   親びん!どこいってたんですか?

親分   お前またこんなとこで油売ってやがったな?

子分   だって、追っかけても追っかけても埒が明かなくて

博幸   そうか

子分   は?

博幸   やっぱり、貴方達の協力が必要かもしれません

子分   やっぱりな!親びんのすごさ、分かったか?親びんはここら一帯を征服した
     闇の帝王って呼ばれてるほどの男なんだから、そうこなくっちゃ!

親分   だから俺は女だっつってんだろアホ!
     …こいつのことは放っといて良いから。それで、どうして突然そう思ったんだ?

博幸   …女?

親分   あぁ、それが?もしかして俺が女だったら何か文句あるってんのか?

博幸   いえ、特に何も。
     あ、えっと一つ確かめたいことがあるんですが、貴方…もしかしてさっき幸子さんに、母に絡まれました?

親分   母?

子分   親びん、聞いた話だと、あの女はコイツの母親らしいんすよ

親分   あぁ、あの女にだったら今さっき絡まれたな



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