幸子 貴方、その方を今探しているの?
子分 そうだけど
幸子 …その素敵な殿方のお名前は、何とおっしゃいますの?
ぜひ私、一度でよろしいのでお会いしたいですわ
子分 げっ。余計なこと言うんじゃなかったな…
いつだかオレが親びんの話をしたら惚れちまった女がいて、
散々こっぴどく叱られたんだよなぁ
幸子 何ですの?
子分 まぁ、いいや。別に。ねぇアンタさぁ、困ったことない?
幸子 いきなり、何なんですの?
子分 オレの親びんは困ったことがない奴とは会おうとしないんだ。
幸子 悩める女性が好みなのかしら?
子分 とにかく、相談したいことがない人間を親びんに会わせるわけにはいかないんだよ
幸子 そうですわね…私、只今その素敵な殿方にお会いできなくて胸が苦しいんですの
子分 ううん、後付けで無理やりだけど…まぁいっか。
オレの親びんに不可能の四文字はないんだからさ!
幸子 (微笑んで)あらまぁ。…あら?不可能って三文字ですよね?
子分 え、だって…ま、いいじゃん細かいことはさ
子分と幸子の会話が続く中、親分入り。二人は気付かない。
親分は二人の様子をうかがいつつ、声をかけるタイミングが来るのを待っている。
幸子 それで、私、その方のお名前をお聞きしたいんですが
子分 え?名前?親びんの?
幸子 えぇ、是非とも教えていただきたいんですの
子分 知らない
幸子 はい?
子分 オレだって知らないよ。親びん、ホントの名前、教えてくれないんだ。偽名しか教えてくんないの。
ちなみに親びんの偽名は橘劉生って言うんだ。かっくいいだろ?
でも本名の方はいつまでたってもはぐらかして、誤魔化して教えてくんねぇの。だから、親びん
幸子 謎の多い方なのですね…ますます魅力的ですわね
子分 そんなの今さらって話さ!親びんの魅力は測定不能!闇の社会では名を轟かせ、表の世界ではクールに
何でも屋として悩める人々を救っては金を巻き上げ…っておっとと
とにかく親びんは俺のあこがれなんだ!会ったとしても惚れないようにしなきゃダメだからな!
じゃなきゃ…
親分、子分の背後に立ち、子分のセリフを遮る。
親分 じゃなきゃ何だ?さっきから聞いてりゃあることないことペラペラ喋りやがって
子分 (苦笑いを浮かべ)お、親びん、いつの間に…
あ、えっと、その、いいとこに来ましたね、親びん。この女、親びんに会えなくて困ってたんすよ!
親分 それで?
子分 依頼を…ね、その…親びんに会いたいって依頼を受けて…オレ…
幸子 まぁ、貴方が親分さん?
親分 違います
幸子 (子分に詰め寄る)ちょっと。この方でしょう?その素敵な殿方っていうのは
子分 も、もちろん
親分 (子分に詰め寄る)おい、何を吹き込んだ、お前
子分 いや、その。依頼がないか聞いて、その…親びんのことをちょ、ちょっとだけ
幸子 別荘や高級車をお持ちだそうですね。私もヨーロッパに別荘を建てようかと思っていますの
親分 (子分に向かって)別荘?高級車?おい、誰だ?
金がないから腹減った、うまい棒でも良いから食いたいってほざいてた馬鹿は?
昨日公園で寒い寒いって騒いで俺の睡眠を妨害した馬鹿は、どこのどいつだ?あぁ?
子分 えーっと、その…何でも屋なのに事務所ないっていったら印象悪いでしょう?
借金のかたに売ったなんて言ったら、逃げられちゃうじゃないですか。
だからそこはこう、気を利かせて!
親分 気の利かせ方が下手クソなんだよテメェは。
第一、俺はいつお前の親分になったんだ?何度言えば学習するんだこの役立たずが!
子分 ひぃぃ、ごめんなさい、お師匠様ぁ
親分 それも違うって言ったばっかりだ
子分 許して兄貴
幸子、子分と話している親分を観察した後、そっと背後から帽子を取る。
帽子で少し遊んでから自分の頭に載せる。幸子の行動に親分は気付いていない。
親分 俺は女だ!
子分 じゃあ姉御!
親分 それもやめろ!
子分 お姉ちゃん!
親分 シメられてぇのか?(子分のほっぺをつねる)
子分 ごめんばばい
親分 で、あの女、どうするつもりだ?
子分 親びんのお嫁さんに
親分 俺は女なんだよ
子分 心のお嫁さんに
親分 そんなイタいことできるか!
幸子 (親分に抱きつく)私を貴方のお嫁さんにして!
子分 何してんだよ!親びんから離れろ!親びんはオレと結婚するんだから!
幸子 嫌ですわ、婚約なさるまで決して離しませんわ
子分 親びんは女だぞ!
幸子 愛に性別は関係ありませんわ!
子分 法律じゃ禁止されてんだよ!
幸子 じゃあ、せめて心の旦那さまに
親分 どいつもこいつも好き勝手言いやがって!離れろ!はーなーれーろー!
親分、幸子を振り払う。幸子、古い少女マンガのシーンのように、しおらしくその場に手をつく。
幸子 きゃ。酷い仕打ち…でもこれも貴方の愛なら私は嬉しゅうございます
親分 ………あんた、頭大丈夫か?
幸子 そんな………心配してくださるのね!優しい。
心配してくださる私の王子様。さぁ、私のこと、つかまえてごらんなさい
幸子、軽い足取りではける。
幕内から親分の帽子を挑発的に舞台の方へ突き出し、ひらひら揺らして引っ込める。
親分、ようやく自分の帽子が盗まれたと気づく。
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