静かなオルゴールの音が聞こえ、幕開き。
 薄暗い舞台中央に親分が背中を向けた状態で立っている。
 親分のみが青白い光で幻想的に照らされている。時折幸子が暗闇からセリフを被せる。



親分   幼いころは誰もが夢見ていた。自分は特別なんだと。
     幼いころは誰もがお姫様だった。誰もが物語の主人公なんだと信じていた。
     世界の中心は自分自身で、誰もが自分を愛してくれると。でも大人になるに連れて分かりだす。
     この世界の不平等さとおかしな平等の理論に降伏をせざるをえなくなる。
     いつから自分は独りになったのか。いつから自分を愛してくれる人を疑うようになってしまったのか。
     今はただ生ぬるい幸せに浸り、感覚のマヒしてしまった脳みそが自分の不幸を自らに訴える。
     光の中で生きることに疲れた洋服はくたびれて、お菓子の家は壊れてしまった。
     そこで私はどんな夢を見て、どんな幸せを描くのだろう?
     叶いもしない夢を見て、偽物の幸せを追い求めた先には何が待っているのだろう?
     その答えなんて誰も知らない。教えてくれない。幸せをみつけるのはいつだって自分自身で、
     そして、本当の幸せは見えないところに転がっているのだから。



 暗転の後、音楽に合わせ明転。
 場所は都会の路地裏。セットは一概にくすんだ灰色。
 舞台上手寄りに帽子をかぶった親分と子分。親分は煙草を吸いつつ、明後日の方向を向いている。



子分   腹減りました、親分。…どっかに百円ぐらい落ちてればいいんですけどねぇ、親分。
     …親分?聞いてます?

親分   そう呼ぶなって何回言えば気が済むんだテメェは

子分   だって、親分は親分ですもん

親分   いつお前が俺の子分になったんだ

子分   あれ?子分じゃなくって弟子でしたっけ?………師匠〜

親分   それも違う

子分   …お師匠様ぁ〜

親分   なれなれしく呼ぶな

子分   今日はせめて人並みな食事が出来ると良いなぁ
     …最後に食べたの、拾った十円で買ったうまい棒ですもん。
     ちょっと豪華にテリヤキバーガー味にしたけどやっぱ美味い棒だけじゃ…ねぇ、師匠は知ってます?
     うまい棒って、物価上昇の波を受けて年年短くなったり細くなったりしてるらしいっすよ!
     せめて美味い棒も二十本買えればお腹いっぱいになるんすけどねぇ…はぁ…

親分   ガタガタぬかしてる暇があるんなら依頼人の一人でもみつけて来いバカ野郎!



 親分、子分の背中を足蹴にし、子分は地面にべったり倒れこむ。



子分   あーれー…うぅ…相変わらず親びんてば酷いなぁ
     ちぇ、依頼人落っこちてないかなぁ…百円落っこちてねぇかなぁ…アラブの石油王の遠い親戚とかさぁ
     優しいコンビニ店員でも良いんだけどなぁ。賞味期限切れ処分品っていう素晴らしい恵みの手があれば、今頃俺だって…
     おでんとかおにぎりとかサンドイッチとかさ…腹いっぱい食べれるんだけどなぁ…
     …ん?あれは…女?女じゃん!やりっ!オレってばついてる〜!



 子分、下手幕内を覗き込む。その視線の先には幸子がいる。
 幸子の様子をじろじろ観察してから、大はしゃぎで親分のもとへ帰る。



子分   親びん!親びーん!向こうにカモになりそうな華奢な女がいたんすよ!

親分   ……それで?

子分   すぐそこに女が困ったようにうずくまってたんすよ!

親分   それで?

子分   だからオレ、女を見つけてきたんす!ちゃんと女でしたよ!万が一があっちゃ悪いからこうやって、
     いろんな方向から見てきたんすけど、あれはどっからどう見てもか弱い女の子でした!

親分   それで、依頼は?

子分   …う、えっと…分かんないっす。だってオレ、一切声掛けてませんもん

親分   この役立たず!

子分   だって…知らない人に声かけちゃいけないって小学校の先生に言われたんで

親分   お前今いくつだ?

子分   十五っす。大昔の日本だったら立派な大人なんすよ!えへへー

親分   お前に威張る資格なんてねぇ。さっさと連れて来い!

子分   えーいやっすよー親びんも一緒に行きましょうよ。オレ独りじゃさみしいぃぃ…
     女を見つけてきたのは俺の手がらなんすよ!そこは褒めポイントってやつじゃないんですか?ね、親びん
     褒めて褒めて褒めて…

親分   暑っ苦しいんだよテメェは!行ってやるよ!行ってやるから離れろこの野郎

子分   さっすが親びん!やっぱり優しいとこあるじゃないですか〜

親分   その代わり、お前はここで大人しく待ってろ

子分   はい。あいあいさー親びん!



 親分はける。子分は待とうとするが次第にそわそわしだし、ついに親分の後を追う。



子分   やっぱ親びん待ってください、親びーん!



 幸子走って入り。子分と肩でぶつかり、二人とも尻もちをつく。



幸子   きゃあ!

子分   いてて…ちゃんと前向いて走れよ!

幸子   まぁ、何をおっしゃるのですか。そちらが突然ぶつかってきたんでしょう!
     なんて失礼な人!

子分   何だコイツ…ってアレ?あんたもしかして、さっきの…

幸子   あら、もしや貴方、先ほど私のことをじろじろといやらしい目で見てた方ですわね?
     おぉ嫌だ嫌だ、私、貴方みたいな方とはお付き合いする趣味はありませんの。それでは(逃げるように歩きだす)

子分   ちょ、ちょっと待て。あんた、今親分と会わなかったか?すげぇカッコいい人なんだけど…

幸子   はて。どなたのことでしょうか

子分   オレの親分だよ!こんな感じのシルエットでさ、オレと違ってこんなに背が高くて
     足がシュッと長くてスタイルの良いオレの親びん!髪がサラサラで、流し眼がサイコーで、
     ウインク一つでそこかしこの美女をとりこにしたっていう武勇伝は都市伝説にもなってるんだぜ!
     あらゆる武道を使いこなす親びんはケンカで負けたことがないんだ!
     ばったばったとこの街の悪のリーダーをこてんぱんにして総長にのし上がったオレの親びん!
     あぁ、カッコいい〜オレが女だったら放っておかないね!
     なんせ別荘は日本だけじゃなく海外にも山ほど持ってて

幸子   高級車をたしなむのかしら

子分   そりゃあもう!高層高級マンションに住み

幸子   ブランドスーツに身を包み

子分   夜の街が似合う二枚目ってのはオレの親びんに間違いないよ!

幸子   そんな素敵な方でしたら、忘れるわけありませんわ。

子分   …なんだ。てっきり親びんと会ったのかなって。
     親びん、どこ行っちゃったんだろ



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