エリー     とことん情けないですよ、詐欺師さん。

詐欺師     いきなり早口になりやがって…つか、一言なんてもんじゃねぇよな…今の…

エリー     反論できませんか?

詐欺師     口で言うのと、実行に移すのは違うんだよ。

エリー     じゃあ、実行してみてくださいよ。エリーに、料理の腕前を披露してくださいよ。
         あ、ちょうど良かった。エリー、実はアルフレッド様のご帰宅の前に、
         お夕飯の準備も済ませておかなければならないんです。詐欺師さん、
         手伝ってくれませんか?お料理、得意なんでしょう?料理人を目指してたくらいなんですから。

詐欺師     料理はしない

エリー     え?

詐欺師     料理は、もうしないって決めたんだよ。

エリー     もう、頑固な人ですね。一回くらいの失敗で諦めるなんて。この根性無し!
         グダグダいわずに、ほら、腕前を披露してくださいよ。

詐欺師     ふざけんな。もうつきあってられるか。



 詐欺師、近くにあったツボを抱えて走り出す。エリー、驚いて追いかける。
 詐欺師、玄関に向かう。エリー叫ぶ。



エリー     ロック!(鍵がかかる音がする)

詐欺師     何したんだよ。

エリー     遠距離操作で、鍵をかけました。只今、お屋敷中の鍵はこのエリーの命令以外では開きません。

詐欺師     くそっ。(その場に座り込む)

エリー     お料理、諦めずにやってみましょうよ。

詐欺師     やらん。

エリー     本当に頑固な人ですねぇ。いいじゃないですか、それくらい。
         何も地上三十メートルから飛び降りろとか一升瓶のお醤油を一気に飲み干せとか、
         そういう無茶なことをしろって言ってるわけじゃないんですから。

詐欺師     どっちも、無茶以前に死ぬぞ。

エリー     十分、分かってるじゃないですか。お料理をすることが、命に関わる問題じゃないってこと。
         意地を張っても、何にも良い事ないですよ?ね、ほら、やってみましょうよ。

詐欺師     やらん。

エリー     まだ断りますか。ふん、いいですよーだ。
         じゃあ、ずっとそこで、その大きなツボを抱えて座り込んだままで居れば良いじゃないですか。
         そのうち、ご主人様とお母様とお嬢様がお帰りになられますから。

詐欺師     おい、待てよ。

エリー     待ちません。おい待てと言われて待つ人なんて、いませんよ。待つのは、貴方の方です。
         貴方がご主人様を待って、警察へと行けばいいんです。私が貴方をかくまう必要なんてないんですから。
         警察のカツ丼を味わう自分を描きながら、アルフレッド様を待っていてください。エリーには、
         もう詐欺師さんと遊んでいる時間はないんです。エリーには、お仕事いっぱいあるんです。
         お料理とお洗濯と…お掃除も途中で放り出したままです。全部、全部、詐欺師さんのせいですかね。
         ふん、もうエリーは、知りません。詐欺師さんの詐欺師生活は、今日で最後になるんです。

詐欺師     ぶっ壊すぞ、このぽんこつ。

エリー     あっかんべー、壊せるもんなら壊してみなさい。壊されたって、アルフレッド様が直して下さるもん。
         それに、エリーは、ぽんこつで結構。ぽんこつなところもエリーのいい所だ、ってアルフレッド様は言って下さるもーん。
         詐欺師さんに、ぽんこつって言われてもダメージゼロですよーだ。
         アルフレッド様よりカッコ悪くて、頭が悪くて、身長が低くて、その身長の低さにコンプレックスを感じてて、
         シークレットブーツを履いてる詐欺師さんに言われても悔しくないもんねーだ。
         そのブーツ、高かったんでしょう?そんなものにお金を費やすなんて…はぁ。開き直ってしまえば楽になれるのに…

詐欺師     人を馬鹿にするのもいい加減にしろ!!

エリー     ふぅん、じゃあ聞きますけど…(詐欺師に近づき)正直、おいくら?



 詐欺師、戸惑いながら恥ずかしそうにエリーに耳打ちをする。エリー、驚いて飛び跳ねる。



エリー     うわっ、聞いちゃった、聞いちゃった!(少し離れたところで、ぼやくように吐き捨てる)
         うわー、驚くほど高くもないし、安くもないけど、一般庶民にとってはお財布に痛い微妙なお値段…

詐欺師     何か言っただろ。

エリー     え?なーんにも。なんにも言ってないですよ。詐欺師さん、幻聴でも聞いたんじゃないんですか?
         ほら、んーと、虫の知らせ?エリーは良く聞きますよ。アルフレッド様からのテレパシーとか、
         アルフレッド様が今どんなこと考えているのか、なんとなく分かる時があるんです。
         詐欺師さんも、そういうのを聞き取ったんじゃないんですか?

詐欺師     ふん、まぁいい。とにかく俺は、料理はしないし、サツには捕まらねぇ。

エリー     あーあ、ふりだしに戻っちゃった。詐欺師さん、何でそんなにお料理を
     毛嫌いするんですか?何でそんなに詐欺師を続けようと思っているんですか?変ですよ。

詐欺師     お前のほうが変だよ。

エリー     詐欺師さんのほうが、もっとずっと変です。キャベツをネズミにかじられたくらいで
         人生を棒に振るなんて、くだらないってことなんじゃないんですか?

詐欺師     ロボットなんかに人生を語られたくねぇな。

エリー     そんなこと言うんでしたら、言われる前に、自分で素敵な未来への一歩を踏み出せばいいんです。
         可能性を自分で潰しちゃダメです。自分は不幸だ、不運だ、って決め付けることこそ、不幸な人生への一歩なんです。
         それくらい、ちょっと考えれば分かることでしょう?詐欺師さんは、エリーが敵わないくらい
         立派な脳みそを持っているんですから。詐欺師さんは病気もしてないし、怪我もないし、障害もない。
         痩せすぎているわけでもないし、太りすぎているわけでもない。詐欺師さんは、とっても幸せな人です。
         何でも、やればできるんです。何の不自由もない、人間なんですから。

詐欺師     分かったような口ききやがって。お前に、何が分かる!?

エリー     ほら、また決め付けた。エリーが不幸を知らないと、決め付けましたね!?

詐欺師     どうせ、ちっせぇことなんだろ。

エリー     どうしてそれが小さい事だって、決め付けるんですか?決め付ける人は嫌いだって、
         さっきも言ったじゃないですか。いい加減にしてください。

詐欺師     じゃあ言ってみろよ!くだらねぇことだったら許さねぇぞ!

エリー     捨てられたんです。
         ・・・二十年前、このドールストマン家の前にお勤めしていたお屋敷の主人から、捨てられたんです。
         その主人は、とてもわがままな人でした。でも、お勤めしていた時、私はその人が好きでした。大好きでした。
         私は新品で、当時最新式で、主人は私を大切にしてくれました。
         訪れたお客様は、私を見ては私の仕事ぶりを褒めてくれました。どんな方でも、私に笑いかけてくれた。
         だから、お掃除も、お洗濯も、お料理も、全部頑張った。ボディに傷が出来ても、
         美味しくないオイルで働かされても、我慢できた。何でも、我慢することが出来た。
         けど、いともあっさり、主人は私を捨てました。主人は私を購入してから、半年で私をクビにしたんです。



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