詐欺師 どうしてだ?
エリー 新型のロボットが開発されたからです。私よりも、ずっと軽くて、世話が楽で、手ごろな値段だったロボットが、
買えるようになったからです。私の代わりがいたから、あっさり捨てた。ただ、それだけです。
詐欺師 そんなん、ありかよ。
エリー 同情されても、素直に喜べませんね。少しでも、お金を持っている人間は、皆、同じです。
詐欺師さんだって、そうでしょう?使いかけの消しゴムや鉛筆を、捨ててしまったことあるでしょう?
気に入らなくなってしまった服を燃えるゴミにしてしまったこと、あるでしょう?ない人なんて、いないはずです。
皆、新しいものが手に入れば、すぐにそっぽを向いてしまう。
まだ使えたとしても、直せば使えたとしても、捨てられたら、私たちは何も出来なくなってしまうんです。
見捨てられてしまえば、その瞬間、私たちはゴミにされる。考えたことありますか?
鉄くずにされて、私という形を失って、誰からも忘れ去られてしまって、私がいつか消える。
誰の心の中にも残らなくなってしまう。その悲しさと無力さを、考えたことありますか?私は、人間が嫌いです。
それ以上に、お金持ちが嫌いです。私たちに心がないと決め付けて、もてあそぶ人が嫌いです。
詐欺師さんのように、ね。
(にっこりと笑う)でも、私は今、ここでメイドとして幸せにお仕事をしています。
心無い人々を許すには、まだ少し時間が足りませんが、全ての人間が嫌いだということはありません。
それは、アルフレッド様が私を救ってくださったからです。十年前、汚いゴミ捨て場で、
九年もゴミ山のゴミにまみれながらボロボロだった私を、拾ってくださった。笑いかけてくださった。
優しく声をかけてくださった。嬉しかった。アルフレッド様には恥ずかしくて直接は言えませんが、
正直神様だと思いました。私は、幸せ者なのです。
詐欺師 だから、ご主人様ご主人様って言ってたわけか。
エリー アルフレッド様はエリーにとって大切なお方です。アルフレッド様は、生きている限り諦めちゃいけないことも、
未来を決め付けちゃいけないことも、自分の可能性を壊しちゃいけないことも教えてくださいました。
諦めなければ、幸せになれる。信じていれば、世界は変わる。今がどん底なら、もうこれ以上苦しい世界はない。
全部アルフレッド様が、教えてくださいました。
アルフレッド様への感謝の気持ちは、言葉では言い表すことが出来ません。
その代わり、アルフレッド様のために、お仕事を頑張るって、決めたんです。
ぽんこつでも、おんぼろでも、言い訳せずに頑張るって決めたんです。
アルフレッド様は、過去は関係ないってこと、教えてくださいました。今が一番大事なんだ、って。
だから、詐欺師さん。詐欺師さんも、やり直してみましょうよ。がむしゃらに、必死になってみましょうよ。
今までは、ちょっと運が悪かった。私も、詐欺師さんも、最初の仕事に恵まれていなかった。
ただ、それだけなんですよ。
詐欺師 あんたの話は、よく分かった。でも、俺は今から何をすれば良い?
エリー ご理解いただき、ありがとうございます。簡単なことです。お料理の勉強をして、
店を持つなり、改めてどこかの専属シェフを目指すなり、初心に帰ればいいんです。
詐欺師 相変わらず、簡単に言うなぁアンタも。
エリー 難しいことじゃないですよ。どんだけ不幸になっても、どんだけ傷ついても、
頑張っているなら、誰かが認めてくれますよ。間違いなく、一人は認めてくれます。
詐欺師 そんなヤツ、俺にはいねぇよ。
エリー あら、何を言ってるんですか。詐欺師さんのことを認める人は、少なくともすでに居るじゃないですか。
…正しくは人じゃなくて、ロボットですけど。
詐欺師 こりゃアンタに上手く言い包められちまったな。俺も、詐欺師、失格か(笑う)
エリー ロボットに言い包められてしまったら、詐欺師としては零点です。
でも、もう、詐欺師として満点を目指さなくたっていいんですよ。
詐欺師さんは、これから料理人としての満点を目指すんですから。
詐欺師 きめつけるなよ、決め付けることが嫌いだって言ったくせにさ。
エリー 決め付け?どこがですか?こういうのは、輝く未来への応援って言うんですよ。
詐欺師 上手いこと言いやがって。
エリー と、いうわけで、お料理の練習として、夕食のお手伝いをお願いします。
詐欺師 そこに戻るのかよ。
エリー 良いじゃないですか、お料理の腕前、披露してくださいよ。
詐欺師 (ため息)しかたねぇな。で、メニューは?
エリー やったぁ。ありがとうございます。メニューはですねぇ、えーと、んーと…ロールキャベツです。…………あ。
詐欺師 俺は帰る。
エリー ちょっ、詐欺師さん、帰らないでくださいよ。お願いします。ロールキャベツ、作ってください。アルフレッド様のために。
詐欺師 うるせぇ、知るか!(持っていたツボをおく)
エリー 本当に、帰っちゃうんですか?つまんないの。仕方ないですね、ロック解除。
詐欺師 あぁ、帰る。本屋によってから、家にな。
エリー まっすぐ帰らずに、何で本屋さんに行くんですか?今日って何か、面白い本の発売日でしたっけ?
詐欺師さん、本が好きそうじゃないのに。
詐欺師 これからの勉強のための参考書探しだよ。それと、もうそうやって呼ぶなよ。
これからは、料理人さん、だろ?
エリー えぇ、えぇ…もちろんです。いってらっしゃいませ、未来の料理人さん。
お帰りまで、ずっとずっとエリーは待っていますから、いってらっしゃいませ
詐欺師、振り向かずにドールストマン家を後にする。
エリー、数秒ドアを見つめた後、足元にあったツボを元に戻す。
聞きなれたエンジン音がして、ハッとして玄関に駆け寄る。
アルフレッドが帰宅する。(下手より出る)
エリー お帰りなさいませ、ご主人様。
アル 良い子にしていたかい、エリー。仕事は、ちゃんと出来たかい?
エリー すみません、アルフレッド様。ちょっとしたハプニングがございまして、本日のお仕事を
ほとんど終えることが出来なかったのです。
ですけれど、本日、エリーは一人の青年を更生させることに成功しました。
アル それは良かったね。エリー、お留守番、お疲れ様。
アルフレッド、エリーの頭を撫でる。アルフレッドの手が離れ、
エリーは噛み締めるように告げる。
エリー アルフレッド様のおかげで、エリーは、本当に幸せです!
終わり。