エリー はい、これです(詐欺師の真似をする)
詐欺師 まぁ、好きってわけじゃない。確かに、この古そうな屋敷にいても、おかしくないが、本当なのか?
エリー 本当に、出るんです。いくら追い出そうとしても、いつまでも居座っては、突然出てくるんです。
エリーは、怖くて怖くて、特に、あっちの方の角の棚の陰から…
詐欺師 あっち、だな。
エリー でも、出てきたら捕まえなくちゃいけなくって。エリー、いつも困ってるんです。
あの足音を聞くだけで歯車がきしんで関節のオイルが乾いてきて、震えが止まらなくなるんです。
詐欺師 足音が聞こえてくるのか?
エリー たたたっ、たたたたたって。
足音、聞こえてくる。
エリー そう、こんな感じの…って、きゃあ!
ねずみが二人の足元を走る。エリーと詐欺師、飛び跳ねて一つの椅子の陰に仲良く逃げて震える。
詐欺師 何だ、ねずみか
エリー ねずみですよ、何だと思っていたんですか?エリーはねずみが大嫌いなんです。
名前を口に出すのもおぞましいくらい。
詐欺師 奇遇だな、俺はお化けの次にねずみが嫌いだ。
エリー 詐欺師さんも、嫌いなんですか。何か、気が合ってるみたいで嫌な感じですね。
詐欺師 アンタが同意を求めてきたんだろ!?
エリー とにかく、アイツを、捕まえなければなりません。詐欺師さん、頑張りましょう!
詐欺師 あぁ。面倒なことになってきたな…
エリー グダグダ言わずに、いきますよ。
エリーと詐欺師、ねずみを追いかける。しかし逃がしてしまう。
エリー また逃げられた…あぁ、アルフレッド様がまたアイツの存在に悩まされてしまう…
エリー、自分が情けないです。あの油まみれの体で食料庫を荒らしては、
アルフレッド様のクローゼットに忍び込んでシルクのスカーフをかじってしまうかと思うと胸が痛くて痛くて…
あぁ、想像するだけでゾッとします。
詐欺師 相変わらず、似合わない台詞を吐くんだな。
エリー だって、私もあの大先輩のように、部品をかじられて色が黄色から青に変わってしまったら
…って考えると、ショートしそうで怖いんです。
詐欺師 ふぅん、俺はアイツのあの足音を聞くと、嫌なこと思い出すんだよ。
エリー 嫌なこと?詐欺師さん、もしかして、ヤツに耳をかじられちゃったことあるんですか?
詐欺師 アンタたちと一緒にするなよ。
エリー あら、違うんですか?確かに、お耳はちゃんとありますね。失礼しました。
で、ヤツの足音で思い出す、忌まわしいことって何ですか?もしかして、耳じゃなくて、へそをかじられたとか?
詐欺師 かじられてたまるか!違う違う、アイツのせいで俺は今の仕事をしてるってだけだ。
エリー ねずみが原因で、詐欺師になった?いくら考えても、どう考えても、イコールで結べませんけど…
詐欺師 へへ、俺は昔料理人ってやつを目指してたのさ。豪邸の住み込みシェフってやつをな。
エリー 料理人?貴方が?いかにも適当で不器用で清潔さのかけらもない貴方が?
詐欺師、ガツンとエリーの頭を叩く。エリーは曲がった頭を両手で戻す。詐欺師は手が痺れて歯を食いしばる。
エリー 殴ったって、貴方が損するだけなのに…いい迷惑です。エリーは常に正直でいなさいと、
ご主人様から言われているのですから、エリーは悪くないですよ。
…それで、似合わないのに目指した料理人さんが、どうして今ココで詐欺師として
エリーの目の前にいるのですか?
詐欺師 だから、ねずみに夢を潰されたんだよ、俺は。
エリー え?またそれですか?どうしてあのちっちゃいヤツが貴方の料理人への道を潰したって
言うんですか?あ、もしかして指をかじられて包丁が持てなくなって、料理人生命が絶たれて…ってところですか?
詐欺師 野菜をかじられたんだよ。
エリー なんだ、そんなの当たり前のことじゃないですか。ヤツは、食料庫を滅茶苦茶に
しながら生きているんですから。詐欺師さん、貴方、そんなことも知らないんですか?
詐欺師 初仕事、滅茶苦茶にされたんだよ。
エリー はぁ、野菜がないだけで、滅茶苦茶になるお仕事、だったんですか。料理人のくせに、情けない。
詐欺師 うるっせぇな。おかげで、料理が不味くなったんだよ。
エリー それって、ただ詐欺師さんのお料理の腕が悪かっただけじゃ…だって、
お肉とかお魚がないせいでお料理が微妙な出来になることがあっても、
お野菜がなくなったくらいで出来が変わるなんて想像つきませんよ?
詐欺師 キャベツだったんだよ。
エリー キャベツ?
詐欺師 ロールキャベツ用のキャベツだったんだよ!
エリー あらまぁ。それは確かに、お料理が成立しません。だって、
お肉をくるくるって巻くキャベツがなかったら、ロールキャベツは…ただの肉団子ですよね。
詐欺師 だから…俺はその時から、ねずみと金持ちが嫌いなんだよ。
エリー 詐欺師さん、お金持ちの人が嫌いなんですか?じゃあ、何で詐欺師なんかに?
詐欺師 騙して、そのありあまった金を奪ってやるって思っただけだ。
エリー なるほど。自分が貧乏だからって、お金のある人がうらやましいんですね。
詐欺師 うらやましくなんかねぇよ!
エリー じゃあ、お金のあるお屋敷で務めて十年のメイドの立場から、詐欺師さんに一言
言わせていただくと…お金の有る無しで人を判断するのは頂けません。
第一、 お金が欲しいなら普通に働いたらどうです?大体、お金持ちのお屋敷の
専属の料理人になろうだなんて夢自体が馬鹿馬鹿しいです。
しかも自分の失敗を人のせいにして、屁理屈と言い訳で犯罪に走ったまま、
その年まで生きてきただなんて信じられません。今からでも修行して
店の一つや二つ持ってやろうってくらいの野心を持ってみてはどうです?
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