詐欺師     まぁ、それが贅沢な悩みってもんだろう。

エリー     贅沢…悩むことに贅沢もないと思いますけれど。だって悩むって苦しいってことですよ。
         苦しい、と面白い、は共存できないと私はすでに学習してます。さっきから、貴方は変なことばっかり言いますね。
         なんだか言葉を交わせば交わすほど、不快な気分になります。
         貴方と会話していくたびに、自然と学習履歴が変更されています。
         どうやら貴方の生きている世界と、私が経験して学習してきた世界は、まるっきり異なっているようですね。

詐欺師     当たり前だろ。アンタ、金持ちの生きる世界しか知らないんだろ?

エリー     失礼な。エリーは、このお屋敷の外の世界も、十分承知しています。
         この世界が、とても豊かで美しく、夢のような世界であることも、知ってます。
         やっぱり貴方と会話していると、何だか胸の辺りがモヤモヤしてきます。
         どうやら私と貴方は、気が合わないようですね。
         すっかり忘れてましたけど、貴方は罪を犯そうとしている人間でした。
         ご主人様と違って常に人を騙そうとしているその態度が、癪に障ります。
         エリーは貴方みたいな人間、大嫌いです。

詐欺師     はぁ、ロボットのくせに、人が嫌いだって?

エリー     えぇ、再度言いますけれど、貴方みたいな人は特に嫌いです。ロボットの私たちを、
         ロボットだからって見下すかのような話し方、目線、解釈の仕方、どれも頂けません。
         まるで、まるであの人たちのようで、見ているとイライラするのです。

詐欺師     あの人たち?

エリー     忘れてください。貴方には関係ないことですから。昔の話です。今は、もう、関係ない。
         エリーにはアルフレッド様がいるから。
         (エネルギー充電を終えて、表情が明るくなる)R-MG3075号、エリザベス・エリエール・エルース、
         エネルギー補充完了しました。お仕事に戻ります。



 エリー、ホースを外し、立ち上がって片付け、スカートのほこりを払う。
 詐欺師、あっけに取られ、その場に突っ立っている。



エリー    お掃除再開します!



 挙手して宣誓して掃除を再開する。詐欺師は数回目で追うが仕方なく椅子に座る。
 エリーは詐欺師を目にしてハッと我に帰る。そして詐欺師を捕まえようと、
 気配を消しながら、詐欺師の背後から詐欺師を捕まえようとする。
 しかし詐欺師は間一髪で逃げる。数秒の追いかけっこが再開。テーブルの周りをぐるぐる回る。



詐欺師     (足を止め)何するんだよ。

エリー     (テーブルの反対側で止まり)何って、犯罪防止行為を実行しているだけですって。
         ね、詐欺師さん。お縄につけ。

詐欺師     燃料補充して、元気になったってことか、エリーさんよ。

エリー      黙って、大人しく捕まったらどうですか。抵抗しても無駄ですよ。

詐欺師     どうかな…



 走り出す詐欺師。二人幕内へ。しかしエリー、捕まえる。



詐欺師     痛ぇ!



 エリーに引きずられながら詐欺師、戻ってくる。



エリー     捕まえた。案外あっさり捕まっちゃいますね、詐欺師さん。
         もう少し手ごたえがなくっちゃ、面白くもないですよ。

詐欺師     面白いとか言うな!ロボットのくせに…

エリー     また“ロボットのくせに”って言いましたね!許さない~。
         ロボットだって好き嫌いとか面白い、つまらないくらい言う権利あります。勝手に決め付けないでください。



 ぎりぎり、と腕をひねり上げるエリー。



詐欺師     放せ!痛ぇんだよ!俺はまだ、何もしてないだろ!?

エリー     放しません。許さないって、さっき言いました。逃がしたら、絶対何か盗んでいくつもりでしょう?

詐欺師     盗まない!絶対盗まない!本当に、何もしないって誓う!だから放せ!

エリー     盗むつもりで入ったんでしょう?分かりきってるんですよ?

詐欺師     もう、盗もうなんて思ってない!だから早く放してくれ!

エリー     (ぱっと手を放す)本当ですね?

詐欺師     あぁ…

エリー     何も盗まないって誓った以上、何かしようとしたら、命の保障はしませんよ?
         エリーはこれでも、10馬力は出せますから。いつもは恥ずかしいので隠してますけど。きゃっ☆

詐欺師     あんた、本当にキャラをころころ変えるな。恐ろしいくらいに…

エリー     え?キャラ変わった?何のことでしょう?エリー、さっぱり分かりません。
         あ、暇ならエリーのお仕事、手伝ってくれませんか?詐欺師さんのせいで、すっかり仕事が溜まってしまっています。

詐欺師     は?俺、とりあえず客だぞ?

エリー     何のことでしょう?泥棒さんをお客と呼ぶ人なんて、どこの世界にいるんでしょうね。て、ことでお願いします。

詐欺師     俺は何にもしねぇぞ。しないからな!

エリー     何言ってるんですか?ミンチにされて、このドールストマン家の可愛いペットの餌にされたいんですか?

詐欺師     ちっ……分かったよ、何すりゃいいんだよ?

エリー     ありがとうございます。見た目以上に心の広い方で助かりました。
         えーと、じゃあ、詐欺師さんは、あっちから、こっちまでの、モップ掛けをお願いします。
         その間、エリーは窓を拭きますから。

詐欺師     何気に俺に辛い仕事やらせようとしてないか?

エリー     何か文句でも?

詐欺師     いや、なんでもない

エリー     ありがとうございます、本当に助かります。あ、ちなみに、詐欺師さんは苦手なもの、ありませんよね?

詐欺師     どういう意味だ。

エリー     いや、あの、その、このお屋敷にはですね、出るんですよ。アレが。
         だから、忠告だけでもしておかないといけないかなぁって、思って。もう一度聞きますけど、
         詐欺師さんには苦手なもの、ありませんよね?

詐欺師     出るって、もしかして、これか?(幽霊のまねをして両手を胸の前で垂らす)



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