エリー　　　　　あっ、こら！（エリーも出る）勝手に入るなんて、許しませんよ！
　 　　　　　　　　　私がご主人様にしかられるじゃないですか！！待ちなさい！



　お盆を片手に掴みながら詐欺師を追いかけるエリー。しかし、しばらくして動きが
　ギクシャクして足が止まる。詐欺師が首をかしげながらエリーに近づく。



エリー　　　　　バッテリー残量が残りわずかになりました。バッテリー残量が残りわずかになりました。
　　　　　　　　　バッテリー残量が残りわずかになりました。バッテリー充電並びに燃料の補充を行います。
　　　　　　　　　残り一分で活動停止します。

詐欺師　　　　　（慌てて）ど、どうすりゃいいんだ？

　エリー、よろけながら壁に行く。そしてホースを自分の体に繋いで燃料補充をする。
　詐欺師、何もできずエリーを見守りつつ突っ立っている。しばらくして、エリーの顔が通常に戻る。



エリー　　　　　やっぱり紅花油に限りますね…

詐欺師　　　　　はぁ？あ、アンタ大丈夫なのか？

エリー　　　　　え？あぁ、大丈夫ですよ。ご心配なさらずに。こんなの、しょっちゅうですから。
　　　　　　　　　日常茶飯事ってヤツです。大体、さっき食事の最中に貴方がインターホンを押すから
　　　　　　　　　中途半端な状態になったんですよ。全然燃料がないのに怒ってお茶入れて、
　　　　　　　　　貴方を追い掛け回したんですからね。そりゃあお腹が減るのは当たり前って話です。
　　　　　　　　　まったくもう、貴方という人は、どれだけ迷惑をかければ気が済むんですか

詐欺師　　　　　怒ったのと俺を追いかけたのは、アンタが勝手に…

エリー　　　　　んもー、人のせいにしないでください。エリーは忙しいんです。お仕事いっぱいあるんです。



　詐欺師、ため息を吐きつつエリーが動けないことを察して、部屋の中を物色する。



エリー　　　　　ちょっと、何してるんですか？もしかして、何か盗もうとか考えてませんか？

詐欺師　　　　　（動揺して）ん？いやー、金持ちの家の中なんて初めて入るから、なんかソワソワしちまってな

エリー　　　　　（怪しむ目を向ける）ふぅん、初めて豪邸に入った、ねぇ…誰が信じると思ってるんですか

詐欺師　　　　　いや、だってこんな壁から鹿の頭とか漫画でしか見たことなくてさ

エリー　　　　　あれは鹿じゃなくてトナカイの剥製です。

詐欺師　　　　　アンタみたいなロボットを目の前にするのも初めてでね。

エリー　　　　　ロボットメイドが社会に浸透して早二十五年だというのに！それに私は旧型ですよ？どんだけ時代遅れなんですか？

詐欺師　　　　　アンタが旧型？

エリー　　　　　えぇ、私は人型メイドロボットの初期型。今はＸＸ-Ｒ型まで来ています。
　　　　　　　　　その点私はＲ-ＭＧ型。Ｓ型Ｔ型Ｕ型Ｖ型Ｗ型Ｘ型、そして今の最新式ＸＸ型なのですから、
　　　　　　　　　私が作られてから随分時間がたってます。ざっと、二十年くらいですかね。

詐欺師　　　　　え？でもアンタ、雇われ始めて十年だって…

エリー　　　　　ドールストマン家に初めて来たのは今から十年前です。

詐欺師　　　　　ココに来る前の十年、何してたんだ？

エリー　　　　　その十年間のことは、貴方には関係ないでしょう？

詐欺師　　　　　話したくないってわけか。ロボットのくせに。

エリー　　　　　　私がロボットだからこそ話したくないって思ってるんです。

詐欺師　　　　　ほぅ、変なヤツだな。

エリー　　　　　貴方に変呼ばわりされたくないです。シークレットブーツなんか履いてる変人に…

詐欺師　　　　　何で分かった？

エリー　　　　　ロボットの観察力、なめないでくださいね。貴方の身長が成人男性の平均値を
　　　　　　　　　大幅に下回っていることなんて、丸分かりです。誤魔化してることさえバレバレで尚更かっこ悪い。
　　　　　　　　　ご主人様とは正反対です。その点アルフレッド様は容姿端麗、頭脳明晰、ルックス、スタイル、どれをとっても最高…

詐欺師　　　　　何のろけてんだよ？

エリー　　　　　の、のろけてなんかないです。ご主人様がカッコいいから、ついつい

詐欺師　　　　　それをのろけっていうんだよ。

エリー　　　　　ともかく、今時シークレットブーツを履いてるなんて、信じられません。
　　　　　　　　　貴方の顔が微妙でも、身長の高さが微妙でも、たとえ貴方が馬鹿でも、シークレットブーツだけはいただけません。

詐欺師　　　　　さりげなく人を馬鹿にしやがって…

エリー　　　　　悔しいなら言い返して御覧なさい。ほら、ほら、ほら！私の人工頭脳に口げんかで負けるなんて、
　　　　　　　　　よっぽど言葉のレパートリーが少ないんですね、貴方。言い返せないところを見ると、全部図星ってことですよね。

詐欺師　　　　　お前のキャラのレパートリーには勝てる気はしないな…

エリー　　　　　んまぁ、私のキャラ設定がおかしいと仰るのですか！？どこまで失礼な方なのでしょう！！

詐欺師　　　　　ほらまたキャラ変えやがった。

エリー　　　　　私はキャラ設定などされてないのです！ご主人様が、エリーには必要ないんだよ、
　　　　　　　　　エリーはエリーのままでいていいんだよって仰っていただけたから、エリーのキャラ設定はゼロなんです。
　　　　　　　　　まっさらな状態なんです。真っ白なブランクのまま。
　　　　　　　　　でもだからこそ私は私。ドールストマン家の、アルフレッド様のエリーなのです。

詐欺師　　　　　ふぅん、キャラ設定なんてできるのか。

エリー　　　　　できますよ。でもしないでくださいね。アルフレッド様の命令に逆らうことは、エリーには許されませんから。

詐欺師　　　　　で、どんな種類があるんだ？

エリー　　　　　種類？あ、パターンのことですか？パターンは様々ですよ。乙女にツンデレ、
　　　　　　　　　内気におっさん、ギャルに男勝りにお嬢様…計三十個ですかね。組み合わせることもできますよ

詐欺師　　　　　それで、その服は、主人の趣味ってわけか？
エリー　　　　　いえ、本体金属ボディをコーティングするもので、この人工皮膚にくっついてるんです。
　　　　　　　　　私は旧型ですので、この服しかもう売られていないんですよ。ご主人様に、
　　　　　　　　　わがままなんていえませんしね。それに、着替えに悩む必要がないのは、
　　　　　　　　　とっても楽です。アルフレッド様なんて、スカーフから靴下まで、組み合わせる
　　　　　　　　　パターンが何種類あるのか私でさえ分からないくらいなんですよ。
　　　　　　　　　人って、何であんなに面倒なことをするんでしょうね。似たようなものだけを
　　　　　　　　　持っていれば、悩んでいる無駄な時間もなくなるのに…

詐欺師　　　　　そんなの、つまらないからだろ。

エリー　　　　　つまらないから？悩むことは、つまらなくない…つまり面白いのですか？理解できません。



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