場所 ドールストマン家
中央には、大きな丸いテーブル。そこでエリーが朝食の用意をしている。
エリー おはようございます、アルフレッド様。本日のご朝食は、いかがなさいますか?
まだお着替え中ですか?(くすくす笑う)ご朝食のお飲み物はコーヒーと紅茶、どちらになさいますか?
上手から、アルフレッドが台詞を言いながら入る。
アル 今日は、遠慮しておくよ。
エリー …召し上がらないのですか、ご主人様?お忙しいのですか?
アル あぁ、ちょっと大事な用事でね。急がなくちゃいけないんだ。ごめんね、エリー。
エリー 用事、ですか…。それなら、お車の中でお召し上がりになってください。
アル ありがとう。それで、エリーには今日一日留守番をしていて欲しいんだ。
今日はエリー一人だけになるから十分気をつけるんだよ。
エリー 留守番なんて初めてです。私、R-MG3075号、エリザベス・エリエール・エルース、
エリーには、まだ留守番についてのプログラムが一切ありません。
アル まだ名前を全部読み上げるくせが直ってないんだね、エリー。(にっこり笑う)
エリー あっ、すみません。私の一人称はエリーでしたね…(咳払い)
私、エリーには、留守番のルールがプログラムに組み込まれていませんよ、ご主人様。
その上、屋敷の中に私だけなんて…ルールがないのは不安です。
アル それなら、心配ない。ルールを書いたメモなら食堂のテーブルの上に置いてあるから、それを見ておくんだよ。
エリー 食堂のテーブルの上のメモ、ですね。分かりました。ご主人様がお出かけになってから、自分で学習致します。
アル (鞄を持ち、下手に向かう)それじゃあ、行ってくるね。留守番頼んだよ。(下手に入る)
エリー かしこまりました。お気をつけて、いってらっしゃいませ。
(幕内で)アルフレッド様の今日一日が、素晴らしい一日になりますように…
バタン、と玄関のドアが閉まる音、車のエンジン音が聞こえ、次第に遠くなっていく。
エリー入り、舞台の奥の窓に張り付いて、アルフレッドの乗った車を見送る
そして、大げさに深呼吸をし、気持ちを入れ替えて正面に向き直る。
エリー エリーの本日のお仕事は…お掃除、お洗濯、ディナーの準備と…
今日はそれに追加、お留守番のルールを守ること。本日は、このドールストマン家の広いお屋敷に、
エリーが一人…たった一人じゃ、いつも以上にお仕事頑張らなくちゃ。それから…メモメモ〜…
エリーはテーブルの上のメモを探し、広げて掲げて、それを読み上げる。
エリー 一つ、仕事をやり遂げること。一つ、電話には的確な対応をすること。一つ、居留守は使わない。
一つ、知らない人は家にあげない。一つ、事故を起こさない。一つ、勝手に家を出ない。以上のことを守るべし。
エリーはメモを綺麗にたたんでポケットに入れる。そしてそわそわし始める。
エリー でも…エリーにちゃんと留守番のお仕事は、できるでしょうか…だって
アルフレッド様も、他の使用人仲間の方々だっていないのに…エリーひ、とり、で…
キーン、と何かが飛んでエリーはその場によろける。
エリー あぁ、緊張レベルのメーターの上昇で、ね、ねじが…っ何処かにぃ…
エリーは慌てふためいて、ねじを探す。しばらく探して見つけて安心してから、ねじを飲み込む。
エリー あぁ〜見つかった。私の悪いくせですねーよかった、みつかって。
これでお仕事も安心してできます。よかったよかった(にっこり笑う)
立ち上がり、宣言するように叫ぶ。
詐欺師が下手側の舞台端に立ちピン、電話をかける仕草。
エリー エリーの本日のお仕事、留守番を開始しまーす。お掃除から始めまーす。
その瞬間、電話が鳴る。エリーは一瞬の間を置いてから、嫌々電話にちかづく。
思案するが、メモを見直して受話器を手に取る。
エリー はいもしもし、どちらさまでしょうか?
詐欺師 あー、オレオレ。オレだけど。
エリー オレオレという方は存じ上げませんが…ご主人様なら只今外出なさっております。
詐欺師 何言ってんだよ?主人はオレだろ?
エリー ご主人様の声はそんな声ではありません。
詐欺師 …………
エリー それで、御用は何ですか?オレオレさん。
詐欺師 まぁいっか…あのさぁ、オレ今そこで事故っちゃってさぁ。
エリー はぁ、事故ですか。事故を起こしたのに、やたらピンピンしてますね。
詐欺師 …ぅ……でさぁ、金が要るんだけど振り込んでくんない?
エリー お金?事故?振り込め?…できません。
私、R-MG3075号エリザベス・エリエール・エルースには、そのようなプログラムは存在しておりません。
詐欺師 エリエリうるせぇな…
エリー エリエリうるさいのは私のせいじゃありません。私が好きでこの名前をつけたんじゃありませんし、
私だって、アルフレッド様のつけて下さった俗称の方がよっぽど好きです。
というわけで、私のことはエリーと呼んで下さい!(にっこり)
詐欺師 …変なヤツ。
エリー 貴方の方が変な人じゃないですか。今時振り込め詐欺の初代型のオレオレ詐欺だなんて、誰も騙されませんよ。
ロボットの私の防犯プログラムが瞬時に反応してしまうようなレベルじゃ、笑っちゃいますね。
こんな下らない事止めて、転職でも考えたらどうですか?いっそ田舎に帰ったほうが良いんじゃないんですか?
(だんだん声が親父臭くなっていく)こんなことを自分の子供がしてるなんて、
あなたのお母さんが知ったら……情けなさ過ぎて泣いてるぜ。
詐欺師 ……うるせぇ!!お前に何が分かる!?
エリー (普通に戻り)何が分かるって……これが犯罪の種であることが分かりました。
詐欺師 ………!!(電話をぶち切る)
詐欺師は、キレてはける。エリーは首をかしげつつ受話器を元に戻す。
NEXT→