真っ白な箱に、おじいちゃんは入りました。

真っ白になる準備は、ずっと前から、とっくに始まっていました。
おじいちゃんは生粋の江戸っ子が大好きな田舎生まれの大工さんでした。
おじいちゃんのお家も私のお家もおじいちゃんが造りました。
お父さんはそんなおじいちゃんを見て子供のころ大工さんを目指したそうです。
でも不器用だったから、おじいちゃんに反対されてインテリアデザインって分野に進んだんだって。
不器用だったのに紙に向かう時は器用になるお父さんを見て、おじいちゃんは、いつも笑ってました。満足そうに笑ってました。

おじいちゃんが一番最初に白くしたのは髪の毛でした。その次は肌でした。日に焼けた真っ黒な肌が真っ白になったと思ったら、今度は洋服を白くしました。
入院の患者さんの洋服でした。
おじいちゃんは私にいつも微笑んでは私の頭を思いっきり掴んで、どうだ、おじいちゃんは強いだろうって私をからかうのが日課でした。
おじいちゃんのお家に行く時は絶対にそうやってからかわれました。
すごく痛くて、痛いのが嫌で、おじいちゃんの家に行かなくなりました。
でもおじいちゃんの手が頭の上にないと、なんとなく寂しく思いました。

私の家族は皆おばあちゃんに似て、もともとそんなに握力が強くない家系なんだそうです。
おじいちゃんから聞いたから本当かどうかは分からないけれど、おじいちゃんはそうはっきり私に言いました。
そして、おじいちゃんは私の小さな手をとって、ぎゅっと握りました。
骨が折れそうなくらい痛くて、泣いたら、おじいちゃんは謝りました。
とても悲しそうな声で、どうだ、おじいちゃんはすごいだろうって言って笑いました。悲しい笑い声でした。

お見舞いに行った時、おじいちゃんは私の手をとってどうだ、すごいだろうって言いました。笑いました。





手は、全く痛くありませんでした。





そのかわりに胸があの時の掌よりも、ずっと痛くなりました。


その三日後、おじいちゃんは大好きな真っ白な菊の花に包まれて、真っ白な服を着て、真っ白な箱に入りました。
真っ白が好きなおじいちゃんはきっと喜んでるねって母が言いました。
おじいちゃんはまだ私の胸を掴んで離してはくれません。
お墓の前で私はゆっくり涙とともにこぼしました。

「おじいちゃん、痛いよ。すごいね」

それはずっと前に言いたかった言葉でした。