私の主人は幼い子供にすぎません。
わがままで気まぐれで、不満があれば些細なことで泣きわめき騒ぎ立てるのです。
ある時、私がゆっくりとクラシックでもと手にしたレコードに興味を抱いたかと思えば勢い余って割ってしまい、ましてやそれがお気に召したらしく二枚、三枚と粉々にしながらきゃっきゃと楽しげに笑いました。
破片の片づけをしたのは勿論私です。後始末は私の役目ですから。
また、ある時は泥だらけの頭を目の前に突き出して、汚れたからどうにかしろと言い始めました。
もちろん断りました。
しかしそれで納得するようなら苦労はしません。
嫌だ嫌だと駄々をこね、部屋中を滅茶苦茶にし始め騒ぎ立てたのです。
もちろん荒れた部屋を片づけるのは私の役目です。
私は自分の仕事を増やさないためにも、仕方なく主人の髪を洗いました。
その午後、やけに主人の機嫌が良かったことは言うまでもありません。
その夜、主人はご機嫌のまま外出なさいました。あまりにも機嫌が良かったようでしたので、私はさっさとベッドに潜りました。
こんな時は日付が変わってから何時間もしなければ帰ってきません。
何故かは知りませんが、いつもそうなのですから仕方ありません。
珍しく静かな部屋の中、私はゆっくりと目を閉じました。
ベキン、と大きな音によって目を開けたのは、それから何時間後のことでしょうか。
主人の帰宅です。
「あー、またやっちゃったよ。………また直しといて」

仕事がまた増えました。

「……寝てんの?」
口を閉ざしていると「ちぇっ」という舌打ちと大きな落下音がしました。
「じゃあここに置いとくから」
ぺたぺたと足音が近づいてきたかと思えば、もぞもぞと何かが潜り込んできました。
絶えきれなくなり起きあがると、横には主人が寝ていました。
しれっと見つめているとパチッと目を開けた主人が口を尖らせては、ベッドが冷たいからここで寝ると言い切って見せたのです。
これには私も呆れ果てました。
「ここは貴方のベッドではありません」
「俺疲れてんの」
「早く自分のベッドへ」
「やだ」
ため息を一つ吐いて、私はベッド脇のチェストの上に置いてあった手帳を開きペンを持ちました。
一連の出来事を記入し主人に目を向けると、そこにはただの子供のような寝顔がありました。
私は手帳を閉じて元の場所に戻し、仕方なく再び横になりました。
もぞ、と主人は私の方に寝返りをうち、私の名前を囁きました。
一人で眠っていたとき以上にベッドの中は温かく、私は気付かぬ間に眠っていました。

翌日、予想通り私は主人に命じられ、一回り大きい新しいベッドを注文することとなりました。







【…その後】

目が覚めた怪物強盗は、ベッドから助手の姿がなくなっていることによって起床後三秒で機嫌を悪くした。
そして辺りを見渡し、そのベッド脇に置かれた手帳の存在に気が付いた。
何の気なしに開いてみたは良いものの、その中身に更に機嫌を損ねることとなった。
わなわなと手をふるわせ、隣のリビングにて朝食を用意していた助手の足下に手帳を投げつける。
「何これ」
「私の手帳ですが」
「そうじゃなくて、何でデタラメばっかり書いてんの。俺こんなこと言った覚えないよ」
助手は一瞬顔の筋肉を強ばらせた。
「そう言われたときのために書いているのです」
少しむっとした怪盗に向けて助手は、静かに微笑んだ。
「さ、朝食にしましょう」