ゴポリと水面下から気体が浮上する音で俺は目を覚ました。
随分と長い間眠っていたらしい。しかし長い長い夜は目覚めた俺の視界から未だに去ろうとはしない。いつまでたっても真っ暗な闇が俺の網膜にこびりつこうとしている。
いい加減、夜は飽きた。
もちろん夜は嫌いじゃない。だけど、こう四六時中真っ暗な中でいたら嫌けがさすと言うもんだ。
遠く彼方の音のようにゴトリと何かが自動的に入れ替わる音がした。
夜は優しい。異端の存在に世界の一部は目を覆ってくれる。そんな一時にその瞼の向こうでしか生きられない俺にとって、夜は俺が唯一活動出来る時間だ。
でも、朝はもっと優しい。もっと言うなら、夜明けは一日の中で一番優しい。
俺が街の中を徘徊して手当たり次第に人間を観察して傷だらけになってボロボロになる。寒くて冷たくて無機質な空の下にある硬いコンクリートの空間は俺を追い詰める。
息苦しさと焦燥感に頭の奥底が焼け焦げていく。虚しさを振りはらいたくて出来なくて。疲労感と孤独ばかりが蓄積されて叫び出したくなる頃にようやく夜明けがやってくる。
フラフラになりながら血も拭わず怪我の修復もせず助手の元へ帰ると、帰ると、帰れば。
普段は冷たい微笑みを浮かべるアイが時には涙を浮かべて、時には慈しみの表情を浮かべて、俺の傷にそっと触れるんだ。
そしてそっと傷をいたわりつつ堅く目を閉じて、俺を抱きしめる。
痛いよ、アイ。お腹減ったから何か作って。
無邪気な顔してにっこり笑ってお願いすると、そっと離れたアイはまたいつもの顔に戻って、かしこまりましたって応えてくれる。そんな一時が、俺にとっての夜明けが、俺は一日の中で一番好きなんだ。
真っ暗な夜は一人でいるには一番の時間。だけどそのあとのその一時があるからこそ耐えられる孤独の時間でもあるんだ。
だからさっさと夜が明けてくれないかな。夜が明けなかったらアイに会えない。あの笑顔に会えない。あの温もりにも優しさにも巡り合えない。
ねぇ、アイ。お腹へったよ。寂しいよ。俺のそばにいてよ。お願いだから。
この闇を取り払って眩しすぎるくらいの朝焼けを見せてよ。脳に残るその笑顔が消えないうちに。
今もゴトリと入れ替わっていくんだ。俺の知らないうちにその姿が、声が消えていく。アイのことは俺にとって大事な情報なのに、俺が気付かないまま何処かにいっちゃうんだ。
どんなに願っても戻ってこない。どんなに胸を焦がしても欠落していく。
頼むからアイ、俺と一緒にいてよ。
カエルは嫌いだけどアイが作ってくれるなら、今度は文句を言わずに食べるよ。
お願いした唐揚げだって、俺はまだ食べてない。
アイがいないと俺は何も出来ないんだ。ご飯もお風呂もベッドも用意されてない部屋で一人でいたくなんかない。
いつだってアイが消えていく以上の時間と笑顔と存在を俺にくれた。
いつだって絶え間ない温もりをくれた。
アイ、ここは冷たくて寂しいよ。
いつか帰るから、美味しいご飯を用意して待ってて。朝が来たら帰るから。
絶対、必ず、帰るから。