恋は人をおかしくさせるらしい。
冷たい壁に押しつけられた私の体に大きな体が覆被さって私へ降り注いでいた光を遮断する。
真暗な闇の中嗅覚と聴覚において人とは違う存在を知らしめされる。私を世界から遮断する。
生暖かいぬめぬめとした物体が唇を撫ぜる。驚愕の息をこぼした隙間を塞がれる。
埋める様に差し込まれたものは私の舌を弄んでは絡んできて悪戯の様に熱を与える。
息苦しさで闇の視界が更に狭まった。喉の奥でもがくものが震えとなって頭の先にまで昇り上がってくる。
酸素の足りない脳が悲鳴を上げはじめ闇の中に真白な空間が見え隠れする。
この胸に滞る苦しさは酸素の不足がもたらすのか、はたまた想いがもたらすのか。今の私には分からない。
ただ、脳の一部が溶かされていくのを止められない。
大きな手が私の小さな胸を掴む。痛い。乱暴な手つきは相変わらずなのに回を追う度に愛しさが増している。難儀な脳みそだと自分でも思う。
制服のセーターを捲り上げられ、スカートまでも捲り上げられる。外界の空気は冷たい。
自分の肌との温度差に羞恥心が込み上げる。熱い肌の上を無機質に等しい硬い爪が走る。
くすぐったさとも痛みともつかない刺激が痺れを引き起こさせる。
やだ。変になりそう。
太股を引き揚げられ、近付いてくる指が撫ぜては爪をたてていく。
微弱な震えが波立って伝わっていく。脳みその奥までも麻痺し始めるようだ。
五感をさらに磨き上げ体温をひき立たせ思考を鈍らせる。
魔人は私の肌に手を滑らせ爪を立て、時に抉る。顔を歪めたって悲鳴を上げたって微動だにせず、何も無かったかのように行為を続ける。
指の先にさえ反応を見せない。憎たらしくも思うが何も出来ない。ただその手のひらになだめられて丸め込まれてしまう。だから太股の内側には小さな傷が隠されている。
爪で抉られた肉の欠落した空間に、裂けた血管から血が吹き出し穴を塞いだ。それだけでなくこの魔人は血の塊を更に抉って肉にまで浸食する。
犯される恐怖は既に薄れた。侵される恐怖は未だ薄れない。
ピリピリとしたむず痒い刺激と共に貫く様な痛みが脳を揺さぶって理性を剥がし取っていく。獣と化す。
ただの痛みは脳を貫いて快感へ変わる。その事実に自らの異変が否定出来なくなる。傷口はただの損傷部分ではないことを嫌でも知らされる。滲む赤い液体でさえ溢れた愛蜜の様に感じられる。
内部に侵入した指が滑りながら肉を擦っていく。奥へゆくほど水気が増す。
ぴちゃ、と滴った音は血なのかはたまた隠すべき体液なのか。ただ、どちらも体温と等しき温度をもっている。
考えるほどに思考は鈍る。鋭い目が私をあざけ笑っている。
立っていられなくなった足が体を床に落とす。ズキズキと傷の痛みはリズムを残したまま。
喉が鳴る。虚空に酸素を求める。
傷口の周りがヒヤリとした。柔らかなものが割れ目に入り込んで液体を啜る。
微かに漏らした声は既に言葉にすらならない。
痛い。けどそれだけでは表せない何かが熱として這い上がってくる。
体の痺れが治まる前に下着をずらされ、乱暴な指を押し込まれる。
とっくに待ち焦がれていた。淫らな音が私の耳を嬲っていく。体は熱の塊となる。
体を少し持ち上げられる。唇を噛む。血の味がにじむ。熱の塊が挿入された途端、体を揺さぶられる。
快楽の波が本能をさらけ出させる。
荒い息づかいが自分じゃないみたいで。甲高い声が自分じゃないみたいで。いつだってフワフワとした中で本能に従って腰を揺らす。意地悪な魔人の声が時に耳に届いては私を更に揺さぶる。
足に置かれた指が私の傷口を僅かに裂いた瞬間、私は気を失った。
ぞわ、と鳥肌がたって目を開けると、私の傷口を舐める魔人が目に映った。
傷口から溢れていた血は凝固を始めていた。
魔人は私が目を覚ましたことに気付いて、乱暴に唇を重ねて来た。
じわり、と血の味がした。
それは唇に滲んだ匂いと同じだった。