さすがに自分でもマンネリだと思う。
ここ最近の休日の過ごし方といったら俺の家でDVDを見るか桂木の大食いツアーに同行するかの二択なのだから仕方がない。そりゃあマンネリ化して当然というものだ。
付き合い始めて半年まではそれでも楽しかった。
桂木はいつだって(特に食べ物の前では)幸せそうな顔をしていたし、俺だってそんな桂木を見てるだけで何時間でもすごせそうだとのろけていた。
でもそれも1年も経てば嫌でも慣れる。
ここら一体の日帰りで行ける範囲のグルメ店は桂木の足音にすら反応するようになってしまったし、俺たちが見た映画の数は数えきれないほどになる。
別に桂木と一緒にいることが不満なわけではない。
桂木のいない休日ほど味気ないものはない。
だからといって桂木と二人で目的もなく俺の家でグダグダとTVを眺めていると心が潤って幸せバラ色、ってわけにもいかない。
なぜならそれがすべて当たり前になってしまったからだ。
あって当然の存在。けれど変化のない存在。
そういうものになってしまったのだから、いくら俺でも頭を抱えてしまう。
何を変えてほしいというわけでもない。ただ、何かがあっても良いだろうという気持ちだ。
俺はそんなことを考えながら隣に座っている桂木を見た。
桂木はケータイでメールを打っていた。
「なぁ桂木、今度どこかへ行こうか」
桂木は首をかしげて俺を見た。
「いきなりどうしたの、匪口さん」
「いや、別に、大した意味はないんだけどさ」
照れ隠しのように笑う。真っ向から聞かれては、いざ、本題は口に出しづらい。
「そろそろどこかへ行きたいとか考えるんじゃないかなーと思っただけで、別に深い意味は」
「嘘」
俺の言葉を遮って、桂木が突然きっぱりと告げた。
俺はとっさのことに、ぎょっとする。
「な、何が!?」
「匪口さんがそういう言い方する時って大事な時に決まってるから」
迷いのない目に見られると俺はもう言い訳すら許されなくなる。
こういう時の桂木は揺るがず冷静すぎるくらいに相手をとらえて離そうとはしない。
この状態に入った桂木が俺は何よりも一番苦手だ。
「桂木、怒んない?」
「怒らないよ。……内容に寄るけど」
「ほら、絶対怒んじゃん!」
「まだ匪口さん何も言ってないのに怒るわけないよ!」
「……本当に怒んない?」
桂木はゆっくりとうなづいて見せた。
「いいから言ってみて」
俺は大きくうなづいて唾をぐっと飲み込んだ。
「最近、そのー……桂木といても普通っていうかさ、その……なんていうか、あの……」
「いいから」
怖がらなくて、と桂木の目が俺の目に向かって無言で訴える。
俺はぐっと目を閉じて言いきる。
「退屈、っていうか、マンネリ化してるよな、俺たち」
ふっと訪れた沈黙の向こうでTVの司会者の声が響いていた。
様子を窺うように目を開けると、桂木の顔はうつむいていた。
「でもそれは俺のせいであって桂木は何も悪くないっていうか、俺が前みたいにいちいち騒がなくなっただけで桂木は本当に昔のまんまで、あ、それ別に悪い意味とかじゃなくて……、だから、その……!」
すると目の前で沈んでいた桂木の頭と肩が同時に揺れ始めた。
何かと思って口を閉ざせば、耐えきれなくなったと言わんばかりに笑い始めたのだった。
状況が上手く飲み込めない俺は渋い顔で首をかしげる。
桂木は笑いをこらえながら、ごめん、と言った。
「笑ってごめんね、でも大丈夫、安心していいよ」
ひとしきり笑って、落ち着いた桂木はそっと微笑んでこう尋ねた。
「匪口さんは私といる時に気まずかったり居心地が悪かったりする?」
俺は大袈裟に首を横に振った。桂木は良かった、と胸をなでおろした。
「それは悪いことじゃないと私は思うな。だって、それはつまり私と匪口さんがそれほど長い時間を一緒に過ごしてきたっていう証拠でしょ?」
俺の頭の中に桂木の言葉がぴかりと光った。
「だから、心配することなんてないよ。だって私は匪口さんと一緒にいたいと今でも思ってるもの。匪口さんは?」
「俺も桂木と一緒にいたいに決まってる」
ほらね、と桂木は笑って言った。
「だから大丈夫だよ、一緒にいるだけで、何をしなくても、私は良いよ」
桂木は出会ったころから変わらないあの笑顔を浮かべる。
そっと腕を伸ばし、俺に抱きつくとはにかんだように囁いた。
「だって私は匪口さんの隣で生きていたいんだもの」
その一言に、俺も桂木につられて照れてしまった。