「はっはっ…あ、匪口さん、お、くれて、すみません!」
時計台の前で、時間を気にしながら立っていた匪口のもとに弥子が駆け付けた。
「5分遅刻。それにしても急いでたんだな桂木」
「え?」
弥子は思わず自分自身を見た。
真冬の、陽も暮れかかった時刻なのに、マフラーも手袋も忘れてきてしまったのだ。
「仕方ないな。手袋貸すよ」
匪口は両手にはめていた青い手袋を外して弥子につきつける。
「え、でも、そうしたら今度匪口さんが…」
弥子は慌てて手袋を匪口に返す。
匪口は「そうか」と一瞬つぶやき、少し考えた後、笑って言った。
「じゃあ、半分ずつ…片方ずつ使おう」
「…え?そんな…中途半端な…」
「いーのいーの」
匪口は弥子の片手にムリヤリ手袋をはめ、自分も、もう片方の手袋をはめる。
そして、手袋をはめていない手を掴んだ。
「こうしてれば、寒くなんないからさ」
ギュッと力をこめたと同時に匪口は照れくさそうに笑った。