「匪口さん、あっちのお店にも入ってみましょうよ」
弥子は、隣りを歩いていた匪口の袖を引っ張る。
「はいはい」
さほど嫌そうな顔もせず、弥子の目指す方へ足を向ける。
その瞬間、弥子のお腹が鳴った。
一瞬固まって照れる弥子に対して聞かなかったフリをして、匪口はケータイを手にしてボソリと言った。
「もう3時か…桂木、何かつまみに行く?」
「……はい ////」
「何が良い?」
「じゃあ、この近くのクレープ屋さんに行きませんか?」
「OK」
「で、何にする?」
「チョコバナナで!…匪口さんは?」
「俺?俺は…別に良いよ」
戸惑って弥子は匪口を見つめる。
見つめる弥子の視線を遮るように、匪口は出来上がったクレープを弥子に差し出す。
クレープを受けとった弥子は、ソワソワしている。
「じゃあ、お金払います」
「いいって、いいって」
匪口は笑ってクレープ屋の横にあった自動販売機に歩みより、缶コーヒーを買った。
「俺は、コレで充分」
プシュ、と開けた缶コーヒーに口をつけ始めて、弥子も渋々クレープにかじりついた。
匪口がちびちびコーヒーを飲んでいる横でクレープを食べ終えた弥子は、のどの乾きを覚えた。
無意識に目線は、匪口の手にする缶コーヒーへと移っていた。
その視線に気付いた匪口は微笑む。
「飲む?」
匪口の掲げた缶コーヒーに弥子は一瞬微笑んだが、すぐに首をふった。
「いえいえ!そんな…ワガママばっかり言えないです!それに…」
「それに?」
「その……1回匪口さんが飲んだのに、私も飲んだら…」
「あぁ、間接キスってやつになるな」
言い当てられた弥子は顔を真っ赤にした。
予想通りの反応を返したことが面白い上に嬉しくて、匪口は思いっきり笑ってみせた。
「桂木、わかりやすっ!てか飲み回しくらい気にすんなよ」
「だって……」
匪口はオロオロする弥子を見て、ニヤリと笑う。
「じゃあさ…」
そしてスッと弥子に顔を近付け、弥子の唇の端をペロッとなめた。
先ほどまで付いていた生クリームが、なめとられてしまった。
「ごちそうさま」
ぺろりと味を確かめるように匪口は舌なめずりをして、満足そうに笑う。
「なっ…なっ…… //////」
「はい、これで平等」
言葉を発することさえできない弥子に、匪口は缶コーヒーを差し出した。
口をパクパクさせつつ口にした匪口の飲みかけのコーヒーは、ブラックのはずなのに、弥子にはとても甘く感じられた。