駅前のベンチで肉まんを頬張る弥子のところに、匪口は駆け寄った。
「ごめん桂木」
弥子は匪口の姿を捕らえると満面の笑みを浮かべた。
「遅いですよー!」
「ごめんごめん、なかなか抜け出せなくってさ。…それで、桂木どうしたんだよ?突然呼び出すなんてさ」
弥子は立ち上がって、足元に置いていた鞄を手にした。
「ちょっと渡したい物があって…」
スクールバックと共に手にした黒い紙袋に手を入れ、弥子は紙袋から黄色いマフラーを手にした。
微笑んで匪口の首にかけ、そっと巻いた。
「匪口さん、ハッピーバースデー」
予想外の出来事に、匪口はきょとんとした表情で何も言葉に出来なかった。
「匪口さんってどんなに寒い日でもマフラーとか手袋とかしないですよね。だから、その、カゼでもひいたら嫌だなぁって…」
照れ隠しに次々と言葉を紡ぎ出す弥子の口が一瞬止まる。
「くしゅんっ」
匪口はそのくしゃみに吹き出した。
「そういう桂木の方がカゼひいてどうするんだよ。それに……桂木、ひとつ言っとくけど俺の誕生日って今日じゃないぜ?」
笑いをこらえる匪口を見つめ弥子は一瞬固まった。
「え?……えぇ?」
弥子の反応を見て匪口は楽しそうに笑った。
「俺が教えた覚えがないから、桂木がどうやって知ったかは分かんないけどさ」
笑う匪口の横で弥子は恥ずかしさに顔を赤くした。
うつむく弥子に気付いて、匪口は温かいまなざしで数秒弥子を見つめる。
「桂木、今日は俺の誕生日じゃないけど」
弥子は顔を上げた。匪口は弥子の手編みの長いマフラーの半分を弥子の首に巻いた。
「今日は俺達のマフラー記念日ってことで」
優しい匪口の言葉に弥子が笑ったのを見て、匪口も満足そうに笑った。