「あ」

テーブルの上の袋の前で、手がぶつかった。
見ると桂木の手が止まっていて、目線の先には一枚だけ残ってるクラッカー。
「ラストワン…」
桂木の口が意味ありげに動く。見始めた映画の音声はテレビのスピーカーから発せられているが、俺と桂木は見向きもせずに無視して目をそらしたまま。
「桂木、何枚食った?」
俺は恐る恐る聞いた。これで解決すれば万事OK。
「えーと……5,6枚かな、分かんないけど」
あちゃー、と俺は首を傾けた。そしてため息を押し殺す。
「いいよ、食べて」
気分を仕切りなおすためにテレビに向かう。一番好きなシーンはとっくに終わってた。
別に1枚か2枚、桂木が多く食べてたって気にしない。でもさっきから続く、この微妙な雰囲気がとてつもなく気まずい感じで落ち着かない。桂木も落ち着かないのか、ソワソワした目線で俺とクラッカーを交互に見ながら、様子を見るように手に取った。
きっとパクリと、このまま桂木が食べて綺麗に終わってしまえばスッキリする。
でも桂木は俺の意を汲み取れないのか、手にしたまま俺のほうをチラチラ見てくる。
俺は何だか少しイライラしてきて、なるべく桂木を視界に入れないように映画に集中しているフリをする。
今の桂木をずっと見てたら、自分が何かしらキツい事を言いだしそうだった。
「だったら…半分にしませんか?」
突然の提案に、俺は首を振る。
「いいよ、別に。それにクラッカーって半分に割るのすげぇ難しいし」
「できるよ、半分に」
ムキになりだした桂木の顔にため息を吐いて、俺は欠伸をひとつついた。
桂木は、無関心な俺の反応にますますムキになって、クラッカーを慎重に両手で持って、パリッと割った。
でもクラッカーは層ごとに割れ方を変え、真っ二つにはなっていない。中心線のラインから外れた中層を桂木は少しずつ割り落とす。その熱心な姿がやけに滑稽で、俺はニヤニヤしながらそれを見てた。
一生懸命な桂木の手に、クラッカーの欠片がベタベタとくっつく。ついていた塩の欠片がポロポロと落ちて光に反射する。
3分弱、桂木は悩みながら慎重にクラッカーと戦い続けた。後に残ったのは、大きな欠片二つと、クズに等しい欠片の群れだった。
「で、大きいのは良いけどその欠片はどうすんの?」
どこかしら疲れた様子の桂木は、言い訳を述べる。
「ちゃんと平等に分けます!きっちり、半分」
すると桂木はテーブルにあったティッシュボックスから数枚ティッシュを抜き取って、半分を乗せた後俺に差し出した。
俺は真剣な桂木の顔を見て、思わず笑い出した。桂木はムッとする。しばらく笑った後、俺は大きく息をついた。
そして桂木の名を呼ぶ。髪を引っ張り、耳元に囁く。
「バーカ」
「…なっ!」
反射的に俺を見た桂木の顔。
俺は歯を食いしばって笑って、桂木の持つティッシュの上のクラッカーの大きい破片を拾い上げてかじった。
クラッカーは、パリッと気持ちのいい音を立てた。