「好きだ」

桂木の瞳の中で、俺の姿が一瞬歪んだのが見えた。
「やだなぁ…じょ、冗談キツイですよ、匪口さん」
「コレが冗談に見えるわけ?」
ぐ…と言葉を噛み締めた桂木が、ほんの少し目を伏せる。
その唇が、すっと息を吐き、何かを言おうと微かに動いた。咄嗟に俺も口を開く。
「俺、桂木以外、目に入んないから。桂木以外の他のヤツと付き合いたいなんて思ったこともないし…それに、桂木に好きなやつがいるってのも、実は知ってる」
戸惑うような瞬き。桂木を困らせたいなんて俺は思ってない。
でも、こればっかりは譲れない。桂木を、他のやつなんかに渡したくない。桂木以外を好きになるなんて想像もつかない。
だから、だから、桂木が欲しい。今すぐに。
「俺のこと、嫌い?」
ふるふるっと桂木の髪が左右に揺すられた。否定の意。
「俺とソイツと、どっちが好き?」
「……………」
「俺のこと、好き?」
「………分からないです」
「じゃあつきあってくれる?」
「ダメです!!」

一瞬の、長い長い間。

「だって…匪口さんが酷い目にあいます」
「どういうこと?もしかして…」
「…許してくれるわけないから、きっと匪口さんも酷いことされます。だから、ごめんなさい!」

ばっと頭を下げ、走り去る桂木。俺は間抜けにも、一歩も脚が出ないし引き止めるための言葉も出ない。
頭の中は、ぐちゃぐちゃ。桂木の言葉がぐるぐる巡る。
桂木の姿が一切見えなくなってから、長い長い時間が過ぎて、やっと思考が動くようになった。
さっきの桂木の言葉は、なんだったんだろう。俺の考えすぎなのか、諦めが悪いからなのか。
アレは、どう考えたって、桂木の本音じゃなかった。逆に、俺をかばってたように聞こえた。
でも、結局結果は同じ。俺は玉砕。桂木は誰かの手の中。俺が得たのは、このモヤモヤとした感情と結果と事実の影。
肩を落とし、心底ため息を吐いた。

せめて誰か、俺のこの気持ちにけりをつけるすべを教えてくれ。
今すぐにでもバグったこのプログラムを、強制終了させたいんだ。
頼むよ。