笑顔。泣き顔。怒り顔。全部全部目を閉じれば浮かんできて。
はずむ声。沈む声。意味深な声。全部全部耳の奥で残っていて。
俺の横でいる姿。一人でいる姿。別の誰かといる姿。全部全部心の奥に流れ込んでいて。
徐々に俺の中を浸食していく。
それは失ってはいけない存在。思い出。記憶。出来事。過程。積み上げて来たもの。重要なデータの一部。
どんな言葉でさえ、つたなさを示してしまうほど眩しいもの。それが今の俺にとっての、桂木。

繋いだその手を、いつまでも繋いでいたい。抱き締めた時の体温をずっと脳内に保存しておきたい。
その笑顔を出来るだけ長く目に焼き付けておきたい。俺の名を呼ぶ声を聞き続けていたい。
一つでも失いたくない。忘れたくない。消えて欲しくない。
もしも桂木が俺の前から消えてしまったら、もしも死んでしまったら、俺は壊れてしまうかもしれない。
永遠など、この世にあるわけがないんだから、そう分かりきっているんだから、それはきっといつか来る。
ガキの頃両親が自殺したように桂木を失ったら、俺はどうなる?

そんな時に喜ぶほど俺は壊れちゃいないだろう。
だったら………だったら?ホントにどうなるんだ?分からない。怖い。自分が分からない。
何だ、この感覚は?俺は桂木を失ってからも、生きようとするのか?
そんなの無理だ。先に命をなくされたら、桂木自信の手で消されたら、俺はどうするんだ?


狂うだろう。
狂って狂って、人として形だけを残す、ただの生物となるだろう。
そんな絶望なんて嫌だ。阻止しなければ、いけない。避けなければいけない。

どうやって?


こうして。


俺は桂木の首に手を掛けた。ヒューヒューと桂木の息が漏れる。
驚いた表情の桂木の目が、俺を捕らえる。指に力を込める。
すぅっと桂木は深く息を吸って、そして、優しく微笑んで、あっという間に息絶えてしまった。

桂木の頬は、涙で濡れていた。
俺の涙だった。