パソコンの脇に置いてあったケータイが音を奏でた。俺はキーボードを打つ手を止め、ケータイを開く。
「メール受信1件」
ただそんだけの文字に、心の奥が少しくすぐったい気分になる。
受信ボックスを開くと、予想通りに桂木からメールが入ってた。やっぱりなと口の端で笑ってメールを開く。

「Re:
今度一緒に映画でも見に行きませんか?
匪口さん、この前見たい映画があるって言ってましたよね
あの映画、私も気になってるんで一緒に見に行きましょう」

メールの本文を眺めていると、その文字の向こうから桂木の声が聞こえてくるような気がした。
頭の中で、あの明るい声が聞こえてくる。
俺は返事を考えつつ、返信ボタンを押す。タイトルに「Re:」の文字が増えた。
桂木とのメールは楽しい。桂木は、いつだってタイトルをつけずにメールを送ってくる。
俺だってメールにタイトルなんてつけられないタイプだから、やりとりを続ける度、タイトル欄は「Re:」の文字で埋められていく。日が経つにつれて、桂木とのメールは長くなっていく。それはタイトル欄の「Re:」の文字が証明してくれる。
そして俺の言葉を受けて桂木が返事をしてくれた回数と、桂木の言葉に俺が返事を返した回数も。
メールの最中、タイトル欄の「Re:」の文字を見つめてみると何だか嬉しくなる。その回数の分だけ桂木が俺のために何かを考えて返事をしてくれたんだと思うし、その回数が一瞬でも俺のことだけを考えてくれていた数なんだ。
そう思うと、照れくささを感じた。

「Re:
じゃあ、今度の日曜どう?」

送信ボタンを押して、ケータイを閉じる。
きっと数分後、また桂木からメールが返ってくる。桂木のところに今のメールが届いて、返事を書いてくれているだろう。
このまま桂木が俺のことを考えてくれる時間が長くなっていけばいいのに、なんて思ってから、俺は自分の考えていることの恥ずかしさを誤魔化すように笑って、再びパソコンに向かった。