ほんのわずかな瞬間、思考が停止した。
自分が置かれている状況がしっかりと把握出来なかった。
あっという間に真っ暗になった視界が徐々に明るくなっていく。西から赤い太陽の光が俺たちの影を長く引き伸ばしている。
不意に吹いた冷たい風がビニル袋をガサリと鳴かせる。
公園のド真ん中で突っ立っている俺。そして俺を見上げる桂木。その顔は太陽以上に真っ赤で、不安げにしている。
何で俺は、こんな状況にいるんだ?
焦りで喉が渇き出す。手に汗が滲む。焦点がなかなか合ってくれない。
俺に立ち向かうように立っている桂木の目線が、痛い。凛と俺の目を見つめ、俺の目線を捕らえようとしている。
記憶を探ろうとしても、鈍い動きの脳みそに苛立ちがつのるのみ。
声を出すことさえ出来ない俺をじれったく見つめる桂木は、軽く泣きそうな目をした。
「匪口さん…?」
そして勢い良く頭を下げた。
「ごめんなさい!」
え?
脳内がぐちゃぐちゃになりはじめる。
何で桂木が謝んの?…いい加減思い出せよ、俺。
「迷惑…かけちゃってごめんなさい。友達との間の罰ゲームなんです。忘れてください!!」
すっと桂木は頭を上げると、そのまま振り返って走り出そうとした。
「待てよ、桂木!」
やっと出た言葉と一緒に出た右手が、桂木の右腕を掴んでいた。
もう一度俺を見つめた桂木の目には、たくさんの涙がたまっていた。
俺の頭の中に、ようやく一連の出来事が再生された。
桂木の涙を見つめ、息を深く吐いて口を開く。
「お、俺も…俺も桂木のこと好きだよ」
これが俺と桂木の関係を壊した言葉となった。
俺と桂木の知り合いという、他人同然の関係を壊すためのパスワードだった。