充分に解されたそこに、熱いものが押し当てられて中に入ってくる感触に、意識して、息を吐く。全部ではなく半分ほど押しこまれたくらいの窮屈さに強く目を閉じてから開けると、目の前に僕の顔を覗き込む山口の顔があった。
まだ全部根元まで入れてもないくせに、伸びてきた山口の手が、僕の頭、耳元へと伝って指先で撫でてくる。繋がりから発せられる熱い痺れに頭の奥が震えるような錯覚が広がっていく。
「大丈夫」
まるでこちらを安心させるように、ぐずる子どもをあやすみたいな口ぶりの声で山口が投げかけてくる。内臓を少しずつ内側から圧迫してくる息苦しさに、つい、顎先が震えて息が漏れていく。いつからか、時期とタイミングは忘れたものの、山口は必ず僕の中に押し入ってくる際に、こうやって優しく声をかけてくるようになっていた。
少しずつ、ゆっくりと、こちらが意識して息を吐くタイミングに合わせ、山口の腰が押し進められてくる。僕の内側を押し開きながら、こちらの様子を伺う山口の手が、なだめるように頬を撫でてくる。見下ろされた、その顔越しに、はるか高い天井につけられた電球のカバーが視界に入り込んでくる。その白い表面に走るヒビの形を目でたどれば、深く息を吐いた山口が、僕の上で動きを止め、顔を近づけてくる。ようやく根元まで押し込んだのだと気付いた時、ホッとした様子の山口と目が合った。
初めて山口のそれを迎え入れたのも、このベッドの上で、だった。その日は一週間も前から、お互いに休みが合って家族のいない絶好のチャンスだからと、初めてセックスしようと話し合って決めていた日でもあった。
僕の部屋を訪れた山口は、信じられないくらい落ち着きなく、ソワソワし続けていた。それまで、お互いの素肌に手で触れ合うことはあっても、僕の症状の心配もあって、長いこと様子見を続けてきた結果、挿入までには至っていなかった。わざとベッドの上に自分から腰を下ろしたり、山口の背を時たまに指で突いてみたりしたが、山口は一向に事を始めようとはしなかった。
痺れを切らし、ベッドの下に座り込む山口の肩を叩き、その耳元で囁いた。
「ねぇ、シないの?」
ビクッとあからさまに肩を震わせた山口の、生唾を飲み込む音がハッキリと耳に届いてきた。僕を振り返った山口のその真っ赤な顔といったら。多分、きっと自分は、これから先、一生、忘れることなど無いのだろう。
ようやくベッドに上がってきた山口の手が僕の肩に触れ、その顔を近づけてキスをしてきた時、やっと山口とひとつになれるのだと期待をした。顔の頬から唇から首元、耳にかけて、鎖骨までたどりながらキスを落としていく山口の緊張ぶりといったら、驚くほどだった。ここまでは、今までだって何度も繰り返してきた触れ合いだというのに、最後までしよう、と交わした約束が、山口の動作をぎこちなくさせているみたいだった。
「本当に、いいの……?」
こちらの体温が上がり始めた矢先、僕の履くズボンの腰元に触れた手を、はた、と止めて、山口は心配そうに声をかけてきた。すっかりこっちは身体の芯から火照り始めているというのに、今さら、ここから引き返せるだなんて、こいつは本気で思っているんだろうか。舌打ちしかけた口元をギュッと引き結び、山口の顔を軽く睨みつける。
「シたくないの? ……最後まで、」
僕を見下ろす山口の視線が、わずかに揺らぐ。その目の動きから、こちらの身体の心配をしているのは明確で、心臓のあたりにキュッと力を込め、意識を絞りながら、声を発した。
「大丈夫だから、もう、何をされても、全部、受け止められるから」
言い切った僕の言葉を聞き入れて、山口も、その覚悟を改めてしたようだった。下着ごと下ろされた腰元に伸びた山口の手が触れた時、ざわりと自分の中で漣に似た何かが身体の中を走っていく。大丈夫、と自分の胸に言い聞かせる。山口のことが大好きだからこそ起こる熱を、ありのままに受け入れる、ただ、それだけで良い。
僕のペニスを手で刺激しながら、山口は相変わらず僕の様子を伺いたいのか、こちらの顔を何度もチラチラと見やってきていた。その視線のうるささに顔をしかめ、
「ちょっと……、見すぎ、」
文句を告げても、その回数は半分に減ったくらいで、全てがなくなるわけでは決してなかった。山口の気遣いの形に胸のあたりが別の熱さで覆われていく。この馬鹿な男が心底、愛おしい。頭の中に文字として浮かべて飲み込めば、暴れ出しそうな感情が、ほんの少し、落ち着きを見せる。大丈夫、このまま、変わらずに、出来る。
「もう、いいから、」
このまま山口の手の中に出してしまってはいけないような気がして、声を上げた。涙の滲んだ目で見上げた山口の股間に目をやれば、ズボンの上からでも分かるほどに、すでに大きく張り出していた。
自らズボンと下着を脱ぎおろした山口は、不器用な手つきで持ってきたコンドームの袋を開け、自らの性器にあてがった。その震える手元の有り様に唇を緩めながら、山口の手に手を添えるようにして手伝ってやると、目が合った瞬間にキスをされた。根元までゴムで覆われたそれに手を添えながら、押されるように何度もキスをされた。気づけば起き上がっていた背はシーツの上に横たわっていて、見上げた山口の熱に浮かされたみたいな顔が視界いっぱいに広がっていた。
顔が離れた、その後で、山口の指先が、そこを探るように触れたのが分かった。縁をなぞるように動かされた感覚に、意識せずとも身体が震えていく。
山口が来る前に充分、ナカは解しておいてある。その事実を短い言葉で囁くように溢すと、山口は目を見開きながらも、少し嬉しそうに僕の顔を見つめていた。その視線から逃げるように顔を逸らし、告げる。
「……お願いだから、早く、」
これ以上、焦らされては持たない、と遠回しに告げた僕の言葉を、山口は都合よく受けとったみたいだった。ぐ、とあてがわれたモノの熱さに息を飲みこみながら、なんとか力を抜こうと、意識して息を吐き出していく。山口の顔を見たら、我慢している全てが崩れてしまいそうで、必死に顔を横に向けて呼吸だけに集中した。これまで体験したことのない、内臓を内側から圧迫されていく感覚に、細かい身震いが続いていく。ぞわぞわと広がる熱の感覚に、吐く息も熱く震えるようになっていく。
「ツッキー、無理、してない?」
かけられた声の甘さに、誘われるように視線を向けていた。浅い呼吸をくり返すだけで精いっぱいの自分を労うように、近づいてきた山口の手が、僕の頭を撫でた。ぐぐ、と窮屈なその場所が、目を合わせた瞬間、さらに窮屈さを増していった、そんな気がした。僕のことばかり気にする山口の、その視線と表情に、甘い感情が胸の内を覆っていった。
ドキッとした心臓が大きく震えると共に、視界は一変していた。と同時に、ゴツッ、と頭に鈍い痛みが走っていた。う、と顔をしかめ、もしや、と思いながら必死になって目を見開いた。
「……あ、」
見上げていたはずの山口の顔を今は見下ろしている事実に、自分の現状を知った。しまった、と息を飲んだ自分を見上げた山口の顔は、一瞬、驚きを見せた後で、ふにゃり、と嬉しそうに緩んでいった。
「……ごめん」
勃起した自分の性器が普段の何倍にも大きくなってしまっている様を目にして、いたたまれなさで、とっさに膝を抱える。見れば座り込む山口の股間には、まだ熱の治まらない性器がコンドームを被ったまま、固く反り返っていた。その熱を受け止めるつもりだったのに、と後悔の気持ちが胸の内側を?き乱していく。
「大丈夫、ツッキー、謝らないで」
そのくせ僕を見上げる山口の顔は相変わらず笑顔のままで、山口への想いで大きくなってしまった僕の身体を愛おしそうに触れた指先で、ゆっくり撫でまわし続けていた。ぎゅう、と膝の近くを抱きしめられ、頬ずりをした山口の口元が、緩みながら動いていく。
「俺、嬉しいから、今」
「なんで、……最後まで、これじゃ、出来なくなった、っていうのに、」
人の膝の間を割り入るように身体を滑り込ませてきた山口が、よいしょ、と僕の身体の上に、その身を投げ出してくる。今の僕からすれば小さすぎる山口の手が、萎みだした僕の性器に触れ、軽く、その頬を擦り寄せてくる。淡い、弱すぎる刺激の中、甘ったるい山口の声が、続く。
「だって、これはこれで、ツッキーのあったかさを思う存分、味わえるから。俺は、好きだよ」
人の身体をゆりかごみたいにして身を任せてくる山口の様子に、それ以上文句を告げる気持ちは続かなかった。
「ソレ、どうするつもり?」
勃起したままの山口の性器を指さすと、うーん、と考える素振りを見せた山口が、わざとらしくニコッと笑顔をつくった。
「後で自分で何とかするから、ツッキーは心配しないで。とにかく今は、」
人の腹の上に頭を乗せ、気持ちよさそうに手足を伸ばした山口が、静かに目を閉じる。
「このツッキーのあったかさを、最後まで、楽しみたい」
だから、もうちょっと、このままでいさせて。僕の上に寝転がった山口のお願いに、僕は薬を手にすることも許されず、ただ、身体が元に戻る、その時を、そのまま待つしかなかった。
それから、何度目かの挑戦で、僕と山口は無事に最後まで致すことに成功した。部屋の電球のカバーに日々を入れたのは、最初のその時のことで、こうやって僕を抱く山口を見上げる際に目に留まると、つい、その日のやりとりを思い出してしまう。
ベッドの上に横たわる僕の上に覆いかぶさりながら、大丈夫、と何度も囁いていた山口は、自らの性器を僕のナカに全て押し込むと、ホッとした様子で口を開く。
「ツッキー、上手」
それは、僕が上手いこと感情をコントロールして変化せずに持ちこたえたことに対する称賛の言葉なのだろうが、もうすぐ二十歳を迎えようとする今となっては、無駄な気遣いとしか言いようがなかった。毎度毎度、挿入の度に告げられる一言は、もはや山口の口癖、みたいになりかけていた。高校を卒業してから、自分は、一度として「それ」を起こしたりしてはいない、というのに。
いいこいいこ、と僕の頭を撫でる山口に対し、つい、苦笑が漏れる。
「それ、いつまで、言うつもり?」
変化しないままの自分の内側は、大きくなった山口の性器で、いっぱいに満たされている。その圧迫感に満足しながら笑みを零せば、緩んだ口元に山口の小さなキスが落とされた。
「『ありがとう』って意味」
唇から離れた山口の口元が、囁く。なにそれ、とはにかんだ自分の中で山口の性器が熱を増すのを感じていた。
「もう、ならないから、安心して。とっくに、子どもじゃなくなってるんだから」
見下ろす山口の視線と目が合って、念のため、言葉にして告げる。
「今が、一番、好き、だから」
その証明に、というわけではないが、さっきのキスのお返しに唇を重ねれば、キスの合間に笑った山口の声がした。
「うん、分かってる。俺も、今のツッキーが、これまでで一番、めちゃくちゃ、好き」
伸ばした腕で目の前の山口の頭を掻き抱くように引き寄せると、深く重ねられた唇で、熱烈なキスを贈られていた。